板垣恵介といえば、有名な格闘マンガ「バキ」シリーズの作者である。板垣氏は人間を超越した(時には人外の)格闘家たちを登場させ、「格闘」という醍醐味を並々ならぬ熱意で描写しつくす。ストーリーを度外視した内容さえも、ぼくを惹きつけて離さないのは、ひとえに作者の異常なまでの熱意ゆえか、とか思っている。また本作品は、大きな反響のうちに10年以上連載を続けてきたのにもかかわらず、追随者がなかなかいなかった。真似しきれないのだろう。しかし最近になってやっと何作品かに板垣作品の影響を強く受けた作品が出ている。その一つが「バキ外伝 疵面―スカーフェイス」である。この作品の主人公は、「バキ」シリーズの人気キャラクターである極道の若き喧嘩師、花山薫である。寡黙にして剛腕。特に際立った個性と魅力を放っている彼のドラマを描こうとするのが本作である。
読み進めていくと、この作品は純粋に格闘そのものを描こうとはしていないのでは、と感じる。とすると本作のテーマは何か。それはずばり、「バキ」の世界観、とりわけ花山薫という人物への熱い熱いリスペクトである。板垣恵介氏の絵に酷似どころか更に丁寧に描いたような作画に加えて格闘シーンもしっかりある。それで当初はぼくも板垣作品だと思っていたが、どうも様子が違う。改めて表紙を見ると、原作が板垣恵介氏で、作画は山内雪奈生氏(板垣氏のアシスタントらしい)…こんな話もあったものだ。巷では「萌え」という言葉も十分に浸透しているかとは思うが、これこそまさに花山薫「萌え」の作品なのだなあ…と不思議な感慨にとらわれた。
確かに登場する敵といえば、幼少から痛風を患う大男であったり、恐るべき怪力と眩術を操る小男であったりと、これまた現実とはかけ離れた人間ばかりである。板垣氏の格闘描写が現実から超現実的なものへの大胆な踏み越えだとすれば、本作は格闘自体も薄皮一層分隔てられた(それによって「バキ」シリーズの持つ現実離れした雰囲気がより強くなった)語りであるように思われる。
「バキ」シリーズを愛する人には本作も歓迎されることだろう。しかしぼくは「バキ」シリーズからスピンオフのような作品が出るのを想像できていなくて、むしろ頭から湧いてきた「花山薫『萌え』ッッ」という言葉から離れられない。“外伝”という、正統なアンソロジーにさえも「萌え」があった…しかも格闘マンガで…。興味深い作品である。現在はチャンピオンREDの休載を経て週刊チャンピオンで連載を再開している。できることならちゃんと風呂敷を畳んでほしいが、アンソロジーだと考えるとやはり中断も不思議ではない…と読者としてはなんとも定まらない心地ではある。かなり言い過ぎたが、今回は別の意味でアンテナに引っかかった作品を挙げてみた。
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