同族嫌悪というのか、ダメ人間が登場する作品を読むとどうしようもなく落ち込む。リアルな行き場のなさや鬱屈した感情をまざまざと見せつけられ、脳天から打ちのめされる。それと意識したのは、えりちん『みたむらくん』と比較的新しく、他にも青野春秋『俺はまだ本気出してないだけ』、真鍋昌平『闇金ウシジマ君』、市橋俊介『敗北DNA』(未刊、連載中)と何作か挙げられる。
つい先日、気疲れして帰ったときに『ハード・コア―平成地獄ブラザーズ』を読もうと思ったのがそもそもの間違いだった。社会のはみ出し者の主人公が、いつかバンジージャンプする(某韓国映画のタイトルのようだ)ことを夢見て、ただ無為に日々を過ごす。周囲の人間の能天気さに暗い感情をぶつけ、安アパートの一室で幼稚なことをしては自己嫌悪する彼・権藤右近は、強面な分だけどうにもかっこ悪い。しかも商社マンのできた弟、左近からの保護観察というおまけつきだ。当時第3話まで進め、ぼくは地獄に叩き落された。もうこれ以上読めない…。しばらく立ち直れなかった。周りの人間の談笑を途轍もなく遠くに感じ、何者でもない自分の口から出る全てが空回りする。はみ出し者の牛山の面倒を見る右近は、徳川埋蔵金の発掘バイトに参加しては日々の疲れと憂さをビールで洗い流す。しかしあるとき、牛山がロボットを見つけたことで少しずつ二人の運命は変わってゆく……いや、変わってゆく、という程でもないなあ。社会に馴染めずも何とか足掻こうとするのに、ずるずると、落ちてゆく。彼らが根本的に純朴で善良だというだけでも哀れさは増すのに、人間以上の知能を備えたロボットなんて出てこられた日には、もう、いったい何を夢見ているのか、と言いたくなる。アンリアルな設定を挿んでギャップが生み出され、右近たちを取り巻く残酷な現実を浮き彫りにする。しかし作者の注ぐ彼らへの視線はあくまで優しく、ラストシーンは思い出すだけで切なさに胸が詰まる。
要するにお前が情緒不安定なんだろ、と片付けられるのも悪くないが、狩撫麻礼×いましろたかしというこの絶妙の組み合わせが、まるで化学反応のように各人の新境地を切り開いているのは確かだろう。少なからず鬱屈を抱えている人は読まない方がいい。いや、実はそういう人にこそ読んでもらいたい作品だ。もはや落伍者が世に容れられないことを「不条理だ!」なんて叫ぶつもりもないが、まあ読んでみて何か感じ取ってほしい。ぼくはここに見たのは、“作者の優しいまなざし”だった。
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