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戦時下の文学界をその思想と哲学において支えたのは新感覚派の横光と日本浪漫派の保田だったといわれていた。一体誰が大戦を遂行した日本の思想的支えだったのだろうか、それは何故だったのか。
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昭和27(1952)年4月28日、講和条約が発効した。日本はこれによって独立することになるが、国内はこの講和条約を巡って議論が戦わされることになる。全面講和か単独講和か、議論は総合誌を舞台にして戦わされることになったが、一方でこの年のメーデーがいわゆる血のメーデーとなったために、対立日本共産党の地下潜入によって戦後世界の国内動乱に一つの方向を定めることになった。 この条約の発効により、極東委員会・対日理事会・GHQが廃止された。 出版界は、文庫の登場につづいて全集が矢継ぎ早に登場し、新潮社、角川書店、講談社、河出書房、筑摩書房、創元社等、踵を接して市場に登場したために、いっけん全集戦争の観を呈した。 また、第2次世界大戦をただ単に否定し去るというのではなくして、今次大戦をふりかえるといった記録風なものが流行した。マークゲィンの『ニッポン日記』を始めとして、占領政策、軍事裁判、アメリカ批判とその暴露の書が堰を切ったように流れだしたのである。 ベストセラーのなかには映画になったものも多いが、『千羽鶴』『三等重役』『丘は花ざかり』などいずれも連載中の好評をおって映画化したものであって、後年のようなジョイント効果を狙ったものではなかった。
横光利一集がベストセラーになったのは、戦時下の文学界をその思想と哲学において支えたのは新感覚派の横光と日本浪漫派の保田だったといわれていたからではなかったろうか。一体誰が大戦を遂行した日本の思想的支えだったのだろうか、それは何故だったのかという思いが生まれていたのだったと思う。 [ 昭和28(1953)年のベストセラー]
『光ほのかに』は、第2次対戦中のナチスドイツによるユダヤ人迫害をのがれて隠れ住んだ少女アンネの日記『隠れ家』が原著である。日本語訳は『アンネの日記』であったが『光ほのかに』はそれに因っている。 『第二の性』はシモーヌ・ド・ボォーヴォワールによって書かれた新しい女性論である。生科学、精神分析、史的唯物論の成果や古今の文学作品を縦横に駆使しながら、男性が支配する社会によって造られた「女」という客体存在に視点をあて、女性の主体性獲得による解放を説いて世界的反響を呼んだ。現代に続くウーマンリブ運動の先駆的古典となったものである。 『君の名は』は、大衆劇作家菊田一夫によって書かれたラジオ放送劇を纏めたものである。放送劇としては、その時間になると銭湯が空になると言われたほどの成功をおさめた。ドラマは、戦中から戦後にかけてのある恋人たちの出会いと別れを書いて、舞台は戦後の経済構造の激変をおうように、良く言えば所を代え土地を変えて広げられていった。戦後直ぐの昭和22年、戦災孤児院の群像を書いた『鐘のなる丘』も同じ作者のものであるが、ラジオドラマとしては異例の成功を収めた。この年映画化している。 『日本資本主義講座』は、日本資本主義論において戦前から対立していた労農派と講座派とどの様な関係があったか定かでない。編者の堀江氏は経済学者といっても、東京新聞の経済部長として終戦を迎えている。本書のころは、労働者教育家を名乗っている 日本共産党系の学者であったと思われるから、階級論にたった最後の資本主義論であったのではあるまいか。このあと1972年に日本福祉大学の教授に就任しているが、1975年没している。 『芥川龍之介集』は二つの全集の中でベストセラーになっている。芥川のテーマは、一人の人生において他人に分かちがたい悩み苦しみを如何に解決するかである。勿論、この表現は筆者の勝手な仮説にすぎないが、芥川という作家は自殺するまでこの混迷から出ることはなかった。この当時何故読まれるに至ったかを考えると、戦争という断絶を挟んで政治経済とも社会とも復興してくる、労働組合運動を母体にした左翼というもう一方の勢力も徐々に体制を整えつつある。そしてこの間の断絶も徐々に埋められつつある。しかし、これらの体制整備から落ちていった人々の精神はいったいどうなるのかという予感、不安の予感が時代の中にあったのだったろうか。 『ジャン・クリストフ』はベートーベンと思われる一人の音楽家の誕生、試練、成熟を描いたロマン・ローランの傑作小説である。10巻におよぶこの大河小説は、雄大なスケールで理想的な天才の生涯をえがいたところに作者ロマン・ローランの理想主義がよく表れている。訳者は片山敏彦。1912年作者46歳の完成である。ロランはこのような活動を評価されて1915年、ノーベル賞を受賞している。 |
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