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ホリエモンは正しいのか?

公正や正義を定義することは難しい。しかしその定義を下す以前に、堀江貴文はあっさりとこう書いている。

この時代の転換期に、旧来の社会システムの破綻に気づかず、ほんやりしていれば他人から搾取されるだけなのです。それが良い悪いという話ではありません。
僕が言いたいのは、これは歴史上で繰り返されてきた事実だということです。世の中には、搾取してお金持ちになる人間とだまされて貧乏になる人間がいます。この事実は知っておいたほうがいい。
もちろん利口になってだまされないようになればいいのですが、これまで旧世代が構築してきた社会・会社システムもなかなか手ごわいものです。

(『稼ぐが勝ち』、知恵の森文庫、光文社、29頁)

堀江は、前にも見たとおり「人間はお金を見ると豹変します。豹変する瞬間が面白いのです。皆ゲンキンなものです。良いか悪いかは抜きとしてそれが事実です。金を持っている人間が一番強いのなら、金持ちになればいいということなのです。」とも書いているが、搾取してお金持ちになる人間とだまされて貧乏になる人間がいるなら、そしてお金持ちが一番強いのなら、お金持ちになればいいという考えを、「良いか悪いか」とは別の問題だと言っている。

ここで堀江貴文が言っているのはこういうことだ。

かつては、受験戦争を勝ち抜いて一流大学に入学し、卒業後は省庁あるいは一流会社に入社する。こういう分かりやすい成功パターンがあった。堀江も父親の引いたそういうパターンに乗って自分は東京大学に入学した。しかし、そういう価値観を持っている親父を見ても、一生懸命やっているわりにはお金をぜんぜん持っていない。親父たちはピラミッドのような三角形の構造があって、それを係長、課長、部長と昇進して高給取りになっていくという幻想を見せられていた。けれど誰もが部長、重役になれるわけでもない。しかも、親父たちが見せられていた右肩上がりに成長していく経済という幻想が幻想でしかないことが、いまや明らかになった。この右肩上がりの経済成長を前提とした旧来の社会システムに親父たちはだまされてきた。そして、勘の鋭い若者たちはこれに気づいている。

もう少し丁寧に見るなら、堀江はバブルの10年前に日本の経済成長は止まっていたという。その間、赤字国債の額はどんどん上がり、そこにプラザ合意が加わってバブルが膨れ上がった。それに大衆が踊らされ、親父たちも踊らされた。「かつて滅私奉公で会社に尽くしてきた親父たちは、要するに、山ほどだまれてきたのです。右肩上がりの経済成長や誰もが部長に昇進できるピラミッド構造なんて、最初から存在しなかったわけです。それはバブルの一例を見ても明らかです。」

かつて右肩上がりの経済成長が存在した。その経済成長のおかげで日本は世界に誇る大国になった。しかしこの経済成長は日本だけに起こったことではなく、戦後のほとんどの欧米社会が経験したことだ。そこでは消費者でもある生産労働者がベースアップを勝ち取り、そのことによって更に消費が底上げされた。経済成長→消費→経済成長という循環は、さまざまな福祉制度によるセイフティネットによっても支えられてきた。この好循環が成り立たなくなってきた。福祉国家が退潮し、ネオリベラリズムが台頭するのはこうした図式の下である。

堀江が言うのは、右肩上がりの経済成長なんて、いつまでも続くはずがない。誰もが部長に昇進できるピラミッド構造なんてありえない。そのありえない幻想を親父たちは信じ込まされ、今の若者もだまそうとしている、ということだ。

堀江が言うのは、誰もがお金持ちになれるなんていうことはありえない、ということだ。そんなものは幻想だ。うまく立ち回って金持ちになる人間と、だまされて搾取される人間がいる。世の中はそんな風にできている。だから早く目を覚ませ。そしてだまされる人間から、できることなら搾取する人間の側に回れと。

最後のところだけを、もうちょっと丁寧に見ておこう。堀江は自分を搾取する人間だと考えて、みんなにもそうなれと言っているのか?

堀江はアルバイトや20代の若者が会社に搾取されていると言う。そして結局それは右肩上がりの経済成長を前提として会社の給与体系が高年齢者に有利に設定されているからだと。だから若者は数少なくても実力主義の会社に行くべきだ。

しかし、結局のところ、この論理を突き詰めれば次のところへ行き着く。

これはアルバイトだけでなく、サラリーマンでも同じことです。どんなにがんばってもそこそこの金持ちにしかなれないし、いまの時代は、いったん手にしたその地位さえ危ないのです。
逆にいえば、自分で会社を興さない限り、搾取の対象になるのは一生まぬがれないということです。
就職とは、他人のリスクコントロールの支配下に入るということです。
要するに自分の運命を他人に支配されるわけです。

(『稼ぐが勝ち』、知恵の森文庫、光文社、38頁)

これに気づいたら会社を立ち上げることです。
自分の会社をつくってそこで他人に稼いでもらうことが、金持ちへの一番の近道なのです。

(同、39頁)

結局のところ、世の中には、雇用者とサラリーマン、搾取する者とだまされる者、勝ち組と負け組みしか存在しないのである。

2005年12月19日号掲載 | 

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