あ ら す じ

「──じゃあ教えてよ、お兄さん」

 まるで何もしていないように自信たっぷりの利羽は、恋に謎解きを求めた。

「どうやって衛君をゴミ捨て場なんかに連れて行ったっていうの?」

「衛君が屋敷からいなくなった時、美静ちゃんも、お母さまも、俊子伯母さまも、君も、全員一つの部屋にいた──そうだっけ?」

 利羽がにらんだが、利羽以上に自信たっぷりの恋は、人差し指を立てて横にふった。

「そもそも、衛君も含めて屋敷に五人しかいなかったという認識が間違っているのさ」

「 ! ! ……何だって」

「屋敷には、もう一人の人間がいた──それは利羽君、君の部屋にあった服が証明しているじゃないか」

 愛も愛久に聞いた。利羽の洋服は、色違いで同じものが二着ずつあると。

「あの屋敷に、利羽は二人いた。ここにいる利羽君と、もう一人、双子の兄弟の《利羽君》がね。こうすれば、すべての推理が成り立つんだ」

「……ぼくの双子の兄弟? さぁ、そんなの、いた覚えがないけど」

 利羽は微かに反応を示したが、すぐ否定した。

「うん。そう言うしかないよね……美静ちゃんも、《利羽は双子です》なんて教えてくれなかった。でも、それは知らなかっただけだ。君との付き合いは薄かったし」

「ぼくには兄弟なんていないって言っているじゃないか!」

 癇癪かんしゃくを起こして声を荒げる利羽を制し、恋は不敵に微笑んだ。

「……愛久が言っていたんだ。リビングを出た君と、ご飯茶碗を運んできた後の君とでは、絆創膏の位置が違ったってね。殴った方の頬とは逆の頬に絆創膏ばんそうこうが貼られていたって。……ねぇ、お願いだから、僕の説明を続けさせてくれないかな。遮られてばかりじゃ、ちっとも話が進まない」

「ぼくは犯人じゃない! 人を殺すなんて……そんなひどいことできない」

「俊子伯母さまの命令でも?」

 利羽の動きが完全に止まった。恋の鋭利な目は、逃げきろうとする利羽の意思を切り裂いてしまった。

「今回の事件の発端は、金──。お祖父さまが死んで、財産を狙っていた俊子伯母さまは喜んでいただろう。養子までとって、病気の旦那の面倒を看続けながら、ずっとその時を待っていたんだから……ところが、いざ遺言を開けてみたら、自分には一銭も入らないことになっている。そんな馬鹿な話はない。それで、美静ちゃんと衛君を殺して遺産を手にしようと思った……彼女の飛び道具は、二人の《利羽》さ。おりしも美静ちゃんと衛君たちは、確実に群馬までお祖父さまの葬式にやって来る。最高・最大・最後のチャンスだった。《利羽》は一人っ子ということにしておけば……」

 利羽は黙って頭を垂れている。反駁はんばくを諦めたのだろうか。だと良いのだが。

 懐中電灯の光を恋に当てる。スポットライトを浴びた恋は、さらにいっそう自信を強めたようだった。

「よし──まずは、衛君殺害の方法からだ」

 名探偵といえば推理ショー。恋探偵の推理ショー、第一幕が始まる。

 

2006年5月8日号掲載

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