| 利羽は勝ち誇って笑っていた。恋は明らかに不利な状況なのに、しかし楽しそうに笑っていた。
その笑い方があまりにも余裕に満ち満ちているので、利羽は笑いをピタリと止め、恋を三度睨んだ。
「でもさぁ、いい加減気づいてあげて欲しいんだよねー。あんまりに可哀想じゃない?」
「何に……」
「ここに、一人足りない人がいるでしょ?」
利羽は目を大きく見開いて呆然とした。が、すぐに我に返り、身をよじって辺りを見回した。
「さんざん名前は出ているのにさ。さんざん利用しているのにさ」
「イマイチ、影、薄いのよ。神々しいオーラを持っているダーリンと違って!」
「さすがハニー! 褒めるタイミング、絶妙だね!」
恋と菫がじゃれている間、利羽は盲点がないように首を動かし、視界の範囲を変え、必死で彼を探していた。
「ほらぁ、ボク、よく見てよ──ちぃちゃんがいないでしょ?」
手遅れながら、小悪魔に嫌味っぽく説明されて利羽は唇を噛んだ。
このまま、恋に勝利の女神が微笑んでくれるといい。愛はそれを祈った。
「愛久なら、今頃は、君のお屋敷の、美静ちゃんのお母さまの部屋かな? 今、Bが美静ちゃんのお母さまを殺そうとしているとこでしょ? 愛久には、先回りしてそこで張っていてもらったんだ。この策は、今朝、思いついたんだけど。よかった、愛久は記憶力がいいからさ、僕がつくった推理ショー台本だって、あっという間に完璧暗記だよ? 一字一句間違えずに。偉いぞ、愛久」
恋は顎に人差し指を当てて、にやりと笑った。傍から見れば、子供をいじめているようにも見える。緑の目が不気味に光る。
「さぁて、はたして……愛久に問いつめられた君の双子の兄弟は、どう言い訳するのかな? 双子だからと言って、逃げ口上が同じようにうまいとは限らない。それに、君とBとは見つかった時の状況が違う。殺しのために侵入しているのが明らかにミエミエになるまで捕まえるな、って愛久に言っておいた。──これでも証拠にならない?」
利羽は小刻みに震えているが、恋は追い打ちをかけ続ける。
「もう網にかかっている頃かな? じゃあ屋敷から警察に連行して……」
警察──という言葉を聞いた途端、利羽は顔を真っ赤にして、恋に憎悪をむき出しにした。
それからあとの動作は、ほんの一瞬のうちであった。
利羽はポケットからナイフを取り出し、恋顔負けの瞬発力で走った。刃先は菫に向けられていた。
「菫!! 」
恋が珍しく彼女の本名を叫んだ直後、ドス、と、ナイフが人の体に刺さる音がした。
懐中電灯が床に転がって、床に散った深紅を照らした。光は、最後に、倒れた影の灰色の髪にスポットを当てて止まった。
利羽に刺されたのは、愛だった。刺した本人も少し驚いている。
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