こう、いそいそと逢瀬に出かける。おのれを省みず、高望みなどしながら。それで、好みのサイズのゆるいオフショアの波だったりすると、「おっ、イケメン」と思うのだが、じっさい入って、初対面の挨拶を交わして観察してみたところ、哲学的で気難しげだったり、口下手でおとなしすぎるところがあったりするので、すぐさま打ち解けるわけでもなく、最初は、様子見てごきげんとって、やっと心が通じ合ったかなと思ういっときがあったりして、やがては、これは早くも蜜月なのかと思ったりする。
あ、これだ、と思った波に乗れて、いい感じで左右とも走り、ボトムで一体になり、トップでからだを合わせ、夢中になってむさぼりあい、へとへとになり、ベッドでわりに素直に、素敵だったわ、とささやくように、きょうは、ありがと、楽しかったわ、と、なごりのときを迎えて、ふと気づくと……。
ありゃ?
相手ばっかりテンション上がりまくりで、ギンギンで、アゲアゲで、げえらげら笑っている。クールなイケメンが見る影もなく酔っぱらってるじゃないの。知らぬまにワンサイズアップし、どっかんどっかんざっぱんざっぱん、空気がまるで読めない男。勝手に盛り上がっている。やめてと言っても、その抱擁は、縦横ぐ〜るんぐるんで激しすぎて、あなたなんかについてけないと、ふりほどこうとしてもふりほどけない。
だめおしとばかりに、砂利と一緒にじゃりんじゃりんと巻かれる。さっきのいい雰囲気はなんだったのか、だまされたのか、見事に下心にはまったのか。身の危険というのは、この場合、限りなく甘い。つい先ほど、ついていけないと思ったばかりなのに、抱き合った思い出の甘美さに、出会ったばかりだけど、そんなあなたについていきたいと、しおらしさをよそおってしまう。だから、またこの次ね、と、無理やり身をほどいて、信用はできないながらも逢瀬の口約束を交わす。
インサイドでも、「アハハハ〜ゴキゲンだね〜!」とばかりに、酔いが抜けきらぬふりをした彼にどつかれて、砂まみれになりながらやっとのことでえぐれた海底をはいあがるように上がって砂丘の上から眺めると、「オレってほんとはとおってもいいやつなんで〜す」といわんばかりの、絵に描いたような美しいレギュラーが割れている。えらく気まぐれな男である。
2007年6月18日号掲載
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