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シークレット
 強い西うねりがヒットして、メジャービーチが大荒れで、波乗りのできないクローズした状態になるときに、すばらしいブレイクを見せる場所が西伊豆にある。そこはバレーボールくらいのごろごろした玉石のボトムで、突き出た堤防にそって、グーフィーブレイクがえんえんと続く。

 一度、南西風の強い日に、白浜あたりの小さな波で軽く楽しんだあと、ふと思い立って、山を越えたことがある。木々は風にたわみ、ちぎれた木の葉がフロントウインドウにはりつき、嵐の気配濃く、とてもアウトドアでのお愉しみに適しているとは思えないような日だったが、波乗りは、また別である。

 西海岸に着いたのは夕暮れ時だった。天気図がまさしくエクセレントウエーブを約束するような狙いどきには、かなりの人が集まるのだが、幸運なことにそのときには誰も入っていなかった。思ったとおり、頭ぐらいのたけのグーフィーが次から次にブレイクしている。

 やっと横に走れるようになったばかりのころなので、ブレイクのパワーゾーンに向かってカットバックして加速しつつ、つないで乗っていくような真似はできなかったが、それでも、いちどテイクオフすれば、波が勝手にどんどん運んでくれる。

 以前、ギャラリーに来たときには、エキスパートたちが、はるか遠くのピークから規則的な曲線を描きながら防波堤と平行に乗ってくるのを、その防波堤に腰掛けてすぐ間近でながめ、とても不思議な光景だと思った。だんだん近づいてくるのではなく、すぐとなりを並走していく、軽やかな生き物。

 そういう軽やかな生き物にはなれなかったけれども、あの不思議な波に乗ることができただけで満足し、あたりが暗くなってきたのをしおに上がることにした。わたしが岸に向かってパドリングを始めたのに気づくと、ビールの軽い酔いで車の中でうたた寝していた女友達も目を覚ましたらしく、車の外に出てきてこちらに手を振る。

 二人で海を眺める。無人のグーフィーブレイクが、夕闇の中、白く輝いていた。

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2007年6月18日号掲載