夕暮れの波乗りには、ビーチラインにともる街の明かりや迫る闇に、寂寥感がつきものだ。それでもほかの季節に比べれば、初夏の夕日は優しくゆっくりと落ちていく。
日中続いた海風がおさまって、夕方の波情報に「オフショア」の文字を発見した。6時を回っていて、サンセットサーフの出足にしても少し遅いとは思ったが、海に行くことにした。
いつもの海には、3人ほど入っていたが、ブレイクのピークがばらけているので、朝の混み具合と比べると、まるで天国のよう。うねりのセット間は長く、厚めのたらっとした波も多いが、ときどき腹ぐらいのサイズのくらいのきれいな波が来る。ふだんなら物足りなく感じるところだが、おりしも夕日を受けて、海面はまさしくオリーブオイルフェイス、ブレイクは琥珀色に輝く。南東の空には白い月が浮かんでいて、日没の刻々、その光を増していく。乗れる波が少なかろうと、その風景だけで十分な気がした。
神様は、ひどく気前がよい。目の前で魚が跳ね上がった。薄く広がったヒレが金色にきらめく。この湾ではあまり見かけたことのないトビウオだった。あとで聞いた話では、最近は浜釣りでもかかるという。その滑空する姿は、とても神秘的だった。そのわりに出た言葉は、「あ、トビウオ!」という、ひどく即物的なわたしなのだった。
わりにゆるい波だったけれども、お手本の点線をトレースするように、つねに意識のどこかでブレイクを感じながら走れた1本が、この波で?と思うほど速力が出た。一番基本であるボトムターンを大事に乗ろうという気持ちに、神様が応えてくれたような1本だと思った。
やがて、沖のうねりも見えなくなってきたので上がり、時刻を知るとあわてて家人に、これから帰る旨電話し、神のいる世界から、現実に戻った。
2007年7月9日号掲載
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