「まぁね。そうとも言うだろうね。あの美静って女の方がおじい様には可愛がられていたけど」
今どきの小学生――外見年齢から――は歳相応の返答をよこさない。澄ました利羽は、それは置いておいて、と言い、愛を下から見つめた。
「あなた、幽霊を調べに来たの?」
「う……ん。そんなところかな」
「もの好きだね。呪われちゃっても知らないから……」
利羽は声を忍ばすように笑った。反応に困る愛。その様子を確認すると、利羽は満足そうだった。
「うちで最初に呪われたのは、美静って女の弟だったかな」
「……呪い殺された? 君もそう思っているの」
「当然。あの子が集積場に行った時……他の親戚は全員、一部屋にいたよ。集まっていたんだよ。ぼくもいた。それが、彼はお手洗いに一人で立って……それきり戻らなかったの」
「集積場に行くと親にも言わなかった? 一人で勝手に出掛けたのか。この辺りに慣れていない小学生が?」
「死に神にとり憑かれたみたいでしょ?」
「そうとも言うだろうね」
相手を真似て返すと、利羽は、後ろ手に何か隠しているようにもじもじして微笑んだ。そうやって自然に笑うと、やはり利羽は可愛い小学生だった。
「ぼくが言えるのはこれくらいかな。じゃ、除霊でも頑張って。愛だっけ」
「よく覚えてくれましたね」
「キナ臭いことにも遭遇するだろうから、心構えくらいはしておいた方がいいよ」
愛は返事ができなかった。的確な忠告。愛は、のちに利羽の正しさを知ることとなる。
利羽は手をふって、軽やかに走り去った。後には、清涼な空気だけが残った。
「……白崎さん!」
しばし呆然と立ち尽くしていた愛が我にかえったのは、美静が駆け寄る姿が見えたからだった。何があったのか、美静は血相を変えている。
「白崎姓が三人もいるから、私は愛と呼んでいいですよ。どうしました?」
「それが……伯母様とお母様が……」
慌てふためく美静の横を、のんびりと緑頭が通り抜けた。恋だ。
「失礼しマース」
「あ、白崎さん、まだ中には入らない方が」
言われながらも、図々しく建物の中に侵入する恋。これだから、「白崎さん」と呼ばれるのに愛は抵抗があるのだ。このろくでもない兄と区別がつかない呼び名だから。
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