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 土の上でうねうねと蠢く虫を、悄然と見つめた。力を入れて握り込んでしまった所為で、中には潰れてしまい尻から緑色の腹の中身が押し出されて、動かなくなっているものもいた。僕が立ち尽くしていると、兄弟二人はさっとしゃがみ込んで、生きている虫を弄り始めた。斑入りマサキの枝に帰してやろうと思っていたので、意地悪な兄弟が全部潰してしまわないかと、心配でたまらなかった。
 タカオがヒデキの耳元でなにか囁きにやりと嗤った。そして素早く立ち上がると、僕を斑入りマサキの垣根に押し付けた。咄嗟のことに避けられず、僕は両肩を押さえられてもがいた。
「ヒデキ、こいつの腕を握れ。放すなよ。」
 兄の命令に、うんと頷いて突進するように腕を取りに来た弟に、抗った末ぎゅっと両手を掴まれてしまい、ますます身動きが取れなくなってしまった。

「やめて、痛い。」
「ヒデキ、離すなよ。」
 タカオがしゃがみ込むと、慌しく尺取虫を拾い集めた。
 僕はヒデキの手を振りほどこうと必死だったが、体格では然程変わらない上、兄の命令に絶対服従のヒデキの猛攻振りに、汗を掻いて抗戦したが空しかった。
 厭らしい笑いを浮かべて、タカオが近づいてきた。何をされるのかと、身を硬くしていた。
「母さんを吃驚びっくりさせた、罰だ。」
「罰だ。」
 タカオが、僕のスカートをたくし上げると、パンツに手を掛けた。
 僕は身を捩って抵抗した。声も出ず、はあはあと息だけを荒くしていた。揉み合いながら、タカオの顔をきつく睨んだ。タカオはやはりにやにやと厭らしく口元を弛めていたが、ふと残忍な色を浮かべたかと思うと、手をパンツの中に突っ込んで来た。
 脚を窄め、尻を引くようにして抵抗したが、更にタカオの手がねじ込むように進んできて、抵抗するあまりしっとりと汗を掻いた股間でぱっと開くと、虫たちを性器に擦り付けるようにしながら触った。
「罰だ。お前が悪いからだ。」
 タカオが、僕の口のすぐ傍で囁くように言った。タカオの吐き出す息に、仄かにパウンドケーキのような甘い匂いを嗅ぎ取り、僕は無意識に目を閉じ、その匂いを胸の奥まで吸い込んでいた。
 僕は何故か、ここにタカオと二人だけで居るような気がした。
 
 入りマサキの垣根の南隣で、長らく囲いをしたまま空き地になっていた場所に、近々何かが建つららしいと、近所の人の噂で知った。高い塀だったが、子供が潜れる程度に板が剥がれたところがあり、立入禁止の看板を無視して入れる僕たちにとっていい遊び場だったから、それが無くなることは非常に残念なことだった。
 僕は、二年生になっていた。
 何年経っても、僕はこの斑入りマサキの木陰で、つくなむ事を止めていなかったが、最近では尺取虫を捕まえても誰にも見せず、密かに別の遊びをするようになっていた。
 この日も、夏が訪れようとする、かなり蒸し暑い日だった。
 いつものように、尺取虫を数匹手に握り込むと、すぐ南隣にあるのに直接行くことの出来ない空き地へ行くため、一旦どぶを跨いで自分の家の方へと引き返した。一筋南側にある僕の家の、二、三軒斜向かいに空き地はあった。いつものようにしゃがむと、板の剥がれ目から潜って中へ入って行った。
 生い茂った草を掻き分けて進むと、バッタが慌てたようにぱらぱらと飛び立ち、つい捕まえたくなったが、手の中の尺取虫を思い、止めておくことにした。
 歩くたびに草が脚を撫でていき、ちくちくとした痛みと言うよりは痒みを覚えた。スカートを履いた僕は、がに股になりわざと股の間で草をなぎ倒しながら、なるべく背の高い草がある場所を選んで進んだ。草がしなる時に、股間に覚える何とも言えない快感を楽しみながら、意味もなく草地を練り歩いた。撓り具合が良く、強く快感を得られる草に遭遇すると、草を股に挟み込んだまま腰を小刻みに振って、もっと快感が得られないものかと試した。自分で触ったとき程の快感は得られなかったが、それでも自分以外の何かに齋されるという意味では、新鮮だった。薹(とう)の立ったヨモギが、特に気持ちよかった。

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2009年10月12日号掲載

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