徐々に脚を開いて、虫が自由に動けるようにパンツを摘んで持ち上げた。
二年前、斑入りマサキを背に、タカオとヒデキに磔刑に処されたように体の自由を奪われ、尺取虫で悪戯をされてから、僕はその感覚が忘れられずにいた。タカオの小学生に有るまじき下卑た嗤いも、今では思い出すたびに何故かぞくぞくとした。あの時、最初は恐怖に慄いたものの、最後には尺取虫の蠢く感触の虜になってしまい、抵抗を止めじっとしていたばかりか、徐々に足を開いていた。その時タカオが、僕の様子の変化を、目を瞠り食い入るようにじっと見つめていたことも、未だによく覚えている。
実は、あの事がある一年ほど前に、僕は自慰を覚えた。まだ五歳だった。そういう言葉は知らなかったが、触ると気持ちよくなるので、何度も何度も性器を擦っては息を弾ませた。その日も、畳の上で仰向けになりパンツに手を突っ込んだまま、忘我の境に入っていたら、母がそれを見咎め烈火の如く怒った。
「女の子のくせに、そんなところ触っちゃ駄目。そこは、女の子の大事なところなの。」
「厭らしいことするんじゃありません。それは、とっても悪いことよ。」
母がいかにも悍ましい物を見るような顔つきで叱るから、とても気持ちのいいことなのに、これはいけないこと、悪いことという分類に、自分の中で位置づけた。しかし、何度叱られても止められない僕は、次第に母の目の届かないところで、密かに触るようになっただけだった。そして、ここは女の子の大事なところなのだと言う母の言葉が、その時は未消化のままながら、心に強く刻まれた。
その後、タカオ達と一緒に立ちションをしては失敗して嗤われるようになる頃には、大事にしてはいけない気すらして来て、執着しているのに苛めてみたいという、相反する気持ちを持て余した。
「ほらみろ、やっぱりお前のは、まんこなんだよ。」
タカオが僕の女性器を触ったとき、尺取虫の蠢きに恍惚とする僕の表情を凝視した挙げ句に吐いた言葉に僕は泣いた。声を上げずに、さめざめと泣いた。立ちションを失敗して嗤われたときなど、比べものにならないくらい悲しかった。それでも、触らずには居られなかった。汚い指で触り、汚い物を押しつけ、それでも気持ちよくなる女性器に、一層強く執着し、そして嫌悪した。
じりじりと照りつける太陽のせいで、目を瞑っていても瞼の裏が黄色く発光しているようだ。
じっとりと汗ばみながら、僕は尺取虫の動きが悪いことに、苛ついていた。
さっき、持ってくるときに握り締めすぎたのだろうか。もぞもぞと蠢くが、元気がなかった。僕は虫を指先で掻き分け、一番敏感な部分に指を宛がった。強弱を付けながら擦ると次第に気持ちが高まってきて、無意識に両足を閉じたり開いたりしていた。締め付けると堪らなくなりすぐに絶頂を迎え、小鼻を膨らませてはあはあと肩で息をした。どくんどくんと、女性器も心臓も脈打っている。
パンツに手を突っ込んだまま、鼻の頭に玉の汗を浮かべ、心地よさにじっと横たわっていた。絶頂の後は気怠い。ゆるりとパンツから指を抜くと、いつものように鼻先に持っていき匂いを嗅いだ。ぷん、といつもと同じ臭い匂いがした。臭いけど、何度も嗅ぎたくなる匂いだった。暫く嗅いだ後、その指を僕は口に含んで、特に匂いが強くついている爪の辺りを、何度も舌先で舐め回した。また、鼻先に近づけて嗅ぐと、大分弱まった女性器の匂いと共に、唾の匂いがした。指先がひんやりとした。
呪縛から解けたようにぴょこんと起きあがると、慌ててパンツの中を覗き見た。益々動きが悪くなった虫が、ぞろりと長くなっていた。指で摘み上げると、砂の山に小さな穴を掘って、その中にぱらぱらと落とした。すぐ傍に、昨日掘った穴がある。蓋にしている割れた一升瓶の底を掴むと、中を覗いたが、昨日の虫はもう動いてはいなかった。虫の死を確認すると、薄青い瓶の底を、今掘った穴の上に被せた。立ち上がり、手をパンパンと打ち砂を払うと、板塀の剥がれ目の方へと歩いていった。
2009年0月12日号掲載