「みぃちゃん、そろそろお風呂に入ろうか。」
「………パパ、みぃ、一人で入る。」
「何で?今日は怪我もしてるから、綺麗に洗わないと黴菌が入って酷くなるよ。」
「…………でも、もう、一人で入る。」
「今日は、一緒に入ろう。パパが洗ってあげるから。」
「みぃはもう、一人で入りたいのっ。」
「みぃちゃん…………。」
そう言った、父の顔は淋しそうだった。
一瞬、父の表情に絆されそうになった。しかし、やはりもう、一緒には入れないとすぐに思い直した。胸の膨らみのこともそうだったが、それ以上に、タカオとの秘密がまた増えてしまったことに、起因していた。タカオに見せ付けた自分の女性器を、父に見られるのは恥ずかしかった。タカオと同時に絶頂を極めたことを感じ取られるのではないかと、また、それを知った父がどう感じるのだろうかと考えると、更に恥ずかしかった。それに、父の男性器を、脳裏に焼き付いたタカオの男性器と見比べて、父の股間から目が離せなくなりそうで、それはもっと恥ずかしかった。
二人だけの秘密と、自分自身の身体の秘密がばれてしまいそうで、怖かった。
家に着くと、僕は壊れた虫籠を、自分の部屋の押入れの奥に隠してしまった。
二つ並べて置いてあると、直ぐに母に見つかって、しつこく理由を聞かれることは分かり切っていたし、そのことで父がまた小言を言われることも嫌だった。
片付けが済むと、昨日捕まえられなかった分を取り戻そうと、すぐに虫捕りに出掛けた。
自転車でちょっと遠方まで行く積りだった。
家からずっと南にある、小さい祠だけの神社へと行こうと思っていた。着いた頃には、ノースリーブのブラウスの背中や腋が、汗でぐっしょりと濡れていた。自転車を止めて、石段を二、三段駆け上がると膝の傷がずきりと痛んだので、途中から歩きに変えた。踏み締めて上がる石段は、小さい祠しかないのに、意外にも立派なものだった。こんもりと繁った森はぎらぎらと照り付ける太陽光を遮り、すっと涼しさを感じた。
春に一度来た切りだったが、思ったとおり蝉の声が煩かった。きっと、いろんな種類を捕まえられるだろうと、期待に胸を膨らませながら、虫の居所を探すように辺りをきょろきょろと窺った。
蝉の声が聞こえる以外は、何も聞こえなかった。森の中に、僕一人だった。木立の中を縫うように歩きながら、あるいは、息を止めて虫捕り網を蝉に素早く被せながら、思うことは昨日のタカオとのことばかりだった。それほどに、強烈な経験だった。
虫籠の口を開け、捕まえたクマゼミを中に入れた。バタバタと暴れた後に籠の桟に掴まったクマゼミは、シャンシャンシャンと一頻り鳴いた。その鳴き声も止まってしまうと、ふと思いついた。
僕はまた、辺りをきょろきょろと窺うと、祠の裏側へと歩いて行って地べたに座り込んだ。
虫捕り網を置き、虫籠の紐を肩から抜くと、スカートの中へと指を這わせた。最近、自分でもどうかしていると思うほど、自慰を毎日繰り返している。止めなくちゃと思いながらも、止められずにいる。
2009年1月4日号掲載