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19.
ゴールデンウィークが目前だった。
中学に入学後すぐに入部したテニス部では、入部希望者が殺到したあまり、新入部員はふるいに掛けられた。全くセンスのなかった僕は、カレンダーを捲る間もなく退部させられた。
全員部活動参加が鉄則なので、僕は困った。
それ以外の部を考えたこともなかったので、他にどんな部があるのかすら知らなかったのだ。
運動音痴の癖に、スポーツが嫌いではなかった。本当は歌や楽器や絵を描くことが得意だったが、何故か運動部に固執していた。退部させられた日に、早くも他の部を見て廻ることにした。
屋外で活動しているもので女子の僕が入部できるものは、他にはソフトボールと、陸上があった。その、どちらもが全く向いているとは思えなかったので、体育館でやっているものを見に行くことにした。バドミントンもよさそうだと思ったが、ここもテニス部に負けず劣らず部員が多かった。バレーボールは、レシーブを受けるたびに腕に大きな青痣が出来るのでその気になれず、その隣で練習していたバスケットボール部を何となく見ていたら、その中にタカオの顔を見つけた。
あれから二年近く、全く会っていなかった。
僕は、胸が高鳴るのを覚え、ぎゅっと手を握り締めていた。
タカオはこちらに気づかず、走りながらパスの練習をこなしている。その額には、汗が光っていた。
二年前とは比べ物にならないほど、背が高くなっていた。かなり身長がありそうだったが、遠目に見ただけでは、どれくらいなのかは皆目分からなかった。逞しくなった体つきに、
見蕩れていた。
顧問の教師のホイッスルが鳴り、練習が中断された。
次の練習に移るようだ。
ぼんやりとしていた僕は、部員が走りながらどっと押し寄せてきたのを除け切れず、押されて倒されてしまった。
吃驚したが、しまったと思うほうが勝っていて、慌てて起きようとした。
「入部希望者か。」
頭の上から降ってきた声に、立ち上がってそちらを見ると、僕をまっすぐ見る顧問の顔があった。
自分のことだとは思っていなかったので、どぎまぎしてしまい、考えもなしに、はい、と言っていた。
言ってから、すぐに後悔していた。とにかく走るのも遅ければ、何をやっても鈍いのに、こんなに走り回るスポーツなど到底無理に決まっている。
それに、タカオが居る。
タカオが僕の入部をどう思うだろうかと、瞬時に考えて、何となく避けた方がよさそうだと思ってしまったのだ。しかし、顧問は、よし、練習に入れ、と何の躊躇もなく言うので、どう断ればいいのかすら分からず、仕方なく従った。
ここも人数がかなり多いと思うのに、テニス部とはえらい違いだった。
もう、次の練習が始まっていて、タカオの顔を見失ってしまったが、何より僕は女子のグループに入らなくてはならないので、女子の先輩についてそちらに行ってしまい、どうせ練習も別々なら、タカオのことを気遣うほどでもないことに気づいた。それに、タカオは僕のことなど、きっともう何とも思っちゃ居ないだろうし。しかし、そう思うことは、胸の裡を切なくした。
そんな感傷に浸っていたのも、束の間のことだった。
初日から、練習は途轍もなく厳しかった。
球拾いしかさせてもらえず、それもサボりがちだった僕は、バスケ部の練習のきつさに慄いた。
とにかく、走る。それに、筋トレが加わる。まあ、試合ではあの広いコートを、何分間も縦横無尽に走り回るのだから、そのくらいの練習をしなくては身体がついていかないのだろうが、いきなりの参加で練習が終わった頃には、口も利けないほど疲れ切っていた。
膝に手をやり前屈みになって、息を整えていた。汗も滴らせていた。近頃汗ばむと感じる、自分の腋から立ち昇る匂いに辟易とした。女臭い匂いは、あらゆる意味で鼻に突いた。
「整列。」
何処からか、誰かの声がして、一斉に素早く移動し始めた。それに遅れまいと、慌てて周りに従った。
最後列に着くと、先頭の列にタカオが居た。
> 21.
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