「おまえは、くるくるぢゃない。多重人格者なんだ。」

「ハッハア! よく見抜いたな。」

 ブラウンが云った。カイエはキョトンとしている。

「僕らは三人組みさ。カイエが一見くるくるに見えるのは、僕たちが混線しているからさ。」

「コフィ、ハンバーグ食べないの?」

「ああ、おまえにやる。」

 カイエは、フォークでグサッとハンバーグを突き刺して食べはじめた。

「カイエ、オレは明日、養子縁組の手続きにいく。スーがきたら、梱包してある絵を渡して、金を受け取っておけ。」

「うん。」

「ブランカとブラウンは、カイエが間ちがえないようにチェックしてやれよ。」

 ブランカは、メェ、と云った。

 翌日、スーはやってきた。

「コフィは?」

「ねえ、コフィの弟はなんで死んだの?」

「ああ、もう十四年も前の話よ。でも、コフィのせいぢゃない。カフィは神経を病んでいたのよ。自分がコフィだって云いだして、それをコフィが否定したら首を吊ったの。コフィはそれ以来、フェイクの人生を送ることに決めてしまった。きみを飼いだしたのも、きみが弟にそっくりだからよ。あいつはね、酒と煙草に溺れても、ドラッグには手を出さない。狡賢いのよ。だからきみも、同情する必要はないのよ。帰るお家があるなら帰んなさい。」

「コフィはモルヒネをやるよ。」

「え、」

「痛みが消えるんだって。」

「痛み?」

「心ぢゃないかな。」

「ふうん。ドラッグに手を出すほど馬鹿だとはおもわなかったわね。」

 赤い髪のスーは、吐き棄てるように云った。

「自分を駄目にしたって、カフィが戻ってくる訳もないのに。」

「お姉さん、荷物、荷物、」

 ブラウンが云った。

「この、赤いビニルテープで巻いてあるやつだよ。」

 ブランカが続けた。

「びっくりした。きみ、腹話術の達人なのね。」

「ちがうよ。僕は存在している。」

 と、ブランカ。

「僕もだ。そして、カイエもだ。」

 と、ブラウン。

2008年12月22日号掲載

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