コフィは、珈琲をひと口飲んだ。
「オレは末期の膵臓ガンなんだ。躯じゅうに転移していて、もう切るところもないんだ。知り合いの医者にモルヒネを出させて、病院には入っていない。」
「嘘でしょう。」
「このマンションはおまえにやる。ローンは残っていない。」
「イヤだ、」
「おまえの絵はフロックコートに見せる。」
「イヤだ、死んじゃイヤだよ。」
カイエはコフィに抱きついた。
「僕をカフィの代わりにしてもいい。スーから聞いたんだ。コフィが性的な意味も含めてカフィを愛していたって。カフィもそれに応えたって。僕をカフィの代わりにして。」
コフィの腕が、柔らかくカイエを包んだ。
「おまえはカフィぢゃないよ。オレは、カイエとしてのおまえが好きなんだ。」
「好きなら死なないでよ。お願いを聞いてよ。」
カイエは泣きだした。コフィは、自分で珈琲を注いできて、
「飲め、」
と、云った。
「カイエのまま、愛してやる。飲めよ、」
「苦い、」
ひと口で、カイエは参った。
「おまえは、ほんとうにカフィなのかもしれないな。あいつは珈琲は飲めなかった。ココアばかり飲んでいた。ホットケーキも好きだった。」
軋むベッドが、上がったり下がったりする。カイエは、コフィの凄惨なほどの美貌にうっとりしていた。今、彼の性器が僕のなかに入っている。カイエの両手には、それぞれ、マスコットが握られている。
「メェ、気持ちがいい。」
「内臓がとろけそうだ。」
「僕、コフィが好きだよ。」
「おまえたちは、ほんとうにいつでも一緒だな。」
「ごめんね、コフィ。」
「なにが、」
「セックスして欲しいなんて、」
「オレは最初からカイエを抱きたかったよ。」
「嘘吐き、」
カイエは両手がふさがっているので、歯でコフィの肩を噛んだ。
2009年3月24日号掲載
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