「ビッチ・オブ・エンジェル。」

 コフィが罵った。打たれた頬の熱さに、カイエは感じて、

「もっと引っぱたいてよ、」

 と、きつい愛撫を要求する。それは、すぐに叶えられる。

 頬を打たれ、胸を掻きむしられる。

「ああ、」

 カイエは、陶然と半眼になり、すべてを受け入れる。

 首を絞められた。

 声が出ない。頸動脈が塞き止められ、激しく脈打つ。ベッドは相変わらず、アップ、ダウンをくり返す。

 このまま死ねたらいい。

 そうおもった瞬間、カイエはカフィを見た。彼は、ベッドの横に猫背気味に立っていた。灰桜色の長髪に、カイエとそっくりな顔貌をしていた。

 カフィ。見ていないでこちらへおいでよ。皆で楽しみをわけ合おう。視界がスパァクし、カイエは失神した。

「僕は、出ていったほうがいいとおもうんだ。」

 と、ブラウン。

「あの人はプライドが高いから、不様な姿を見られたくないと感じるとおもうんだ。」

「そうだろうか。」

 カイエは、コフィがまだ眠っている早朝、キッチンで会議をしていた。

「僕は、コフィが好きだ。だから、コフィがいちばんいいようにしてあげたい。」

「メェ。それは独善だ。人間は、自分のしたいようにしかできない動物だよ。」

「僕は出ていくのがいいとおもう。」

「ぢゃ、多数決で決定だ。」

 ブラウンが云う。

「白瓜が食べたいな。」

「カイエ、きみはすぐ脱線する。」

「ごめん、」

「持ち物はあるか。」

「惑星二十一個。」

「メェ。お馬鹿さん。お金はどうするの。」

「絵の代金を前借りしよう。」

「それは、泥棒といわないか。」

「僕は、もともと、コフィのサイフをスリしようとしていたんだし。」

「う〜ん、やむを得ないか。」

 ブラウンがうなる。

2009年3月30日号掲載

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