そこまでいうと、タッフィは黙ってしまった。時計は午前三時をまわっていた。いつのまにか隣からのテレビの音は消えている。窓の向こうのネオンはあいかわらず一定の法則をもって点滅したり変色したりしながらガラスを通して部屋のなかを照らし、そのたびに彼の顔が微妙に違って見えたが、黙っているとやはりそれはただのぬいぐるみにすぎず、そこにあるのはさっきの冗舌ぶりがうそみたいな抜け殻のポリエステルやおがくずのかたまりなのだった。話しをしているときには魂のスイッチのようなものがonになって、黙ると自動的にoffになってしまうみたいだ。人間は、わたしは魂のスイッチがoffになるなんてことはない。どんなに疲労して昏睡しているときでもonのままだ。どちらにレバーを倒しても真っ赤のonのランプがついて、わたしを休ませてはくれない。わたしはタッフィの魂の点滅を、このまましばらく眺めていたいと思った。この言葉を彼に言わなければ。そうしないとこの薄暗い部屋には決して朝が来ないような、突如いわれのない強迫観念に襲われつぶやいていた。
「ぼくに、やらせてくれないか。さがしてるんだろう、新しいカウンセラーを」
テディベアのスイッチは即座にonになった。
「きみが?カレンのかわりを?」
彼はしばらくまた例のくっくっくという笑い声をたてた。
「はなしを聞くだけでいいんだろう。これでも結構聞き上手なほうだとおもうけど」
「んんん。そうだねえ。きみは、なんていうか”ぐどん”な感じで案外いいかもしれないな。くく」
「ね、いいだろ?だってもう僕は君たちのことを」
「わかったよ。たいていのやつは、ぼくの意見には反対しないんだ。いいよ。ぼくがきみのことをみんなに話してあげる」
「ああ、ありがとう」
わたしは空腹のことも生活のことも一瞬忘れた。
「この部屋はみんなには教えない。きみと会った、あそこで土曜日のあの時間にまっててよ。誰かしら訪ねていくはずだから」
タッフィは、ピスタチオグリーンの目でわたしの目の奥におそらくはじめて焦点をあてて見つめた。
これが、わたしが毎週週末になると、どこからともなく繁華街のごみ集積所に集まってくる悩めるテディーベアたちのために、カウンセリングを行うことになったいきさつである。カウンセリングといっても専門的な知識はもともとカレンにもなく、同様にわたしのする仕事とは彼らの話を聞いてやることが主だった。ときには、彼らの思うとおりに彼らにわたしの身をまかすこともあったが、それはそれで心地よく甘い時間であった。
彼は短い足を投げ出したまま、自身のことを話しはじめた。わたしがまだ湿っている足の辺りをふこうとすると、抑揚のない調子で「きみは、クライアントのからだに勝手に触れないように」とたしなめられた。話しながらずっとわたしを見つめている冷たい表情をもったその目は、触れればやはりヒンヤリとしているのだろうか。
「まだわかってないんだな。いいかい、ぼくらは愛玩されることにうんざりしているんだよ」
は
じ ま り 了 ………………………………………………………………
2004年2月2日号掲載
次章 タッフィ
|