ハルチカのかわりに畑で作業に勤しむすわん。大汗をかいて、ハルチカの部屋の冷蔵庫から麦茶を出して飲む。ポケットのケータイが鳴り、出るすわん。
すわん 「もしもし、パパ? ママから聞いたの?……うん、聞こえるよ、パパの声も、……うん、明日一度帰るから……」
嬉しそうに話す。その姿を縁側から見つめている少年。ギブスをはめた腕を三角巾で吊るしている。電話を切った直後、気付いて驚くすわん。
すわん 「あんたもしかしてあの時の。なんでここにいるの? 警察とかじゃないの?」
動揺する。
少年 「ニュース観てないの? ケーサツは僕のこともあの女の子と同じ被害者だと、本気で思ってるんだよ」
すわん 「そんな……」
少年 「ここはちょっと前にお姉さんの後つけてわかったんだ。お姉さんキレイだから目立つもんね
ナイフを出す。
すわん 「なに考えてんのよ、やめてよね」
少年 「ここ何日かあいついないみたいだね。……知ってんだ」
笑う。
少年 「あいつが証拠になるもの殆ど持ってってくれたおかげでさ、助かっちゃったよ」
すわん 「女の子は?」
少年 「壊れて病院。口がきけなくなったみたいだよ」
すわん 「警察をよぶわ」
ケータイをダイヤルしようとした途端、その手の甲をナイフで切られ、ケータイを落とす。
少年 「だからさ、返して欲しいんだ、僕のリュック。持ってるんでしょ?」
すわん 「ないわよそんなの。あの日のうちに捨てちゃったもの。それにねあんた、こういうことされると物凄く痛いのよ」
怒りに身を震わせるすわん。少年の顔つきが変わる。
少年 「ウソだッ! あいつインターネットで流すって言ってたんだよっ!」
すわん、棚にある茶色い瓶を取り後ろ手に隠すと、少しずつ移動しながら縁側の方へ逃げようとする。ナイフを持ったまま室内を荒し始める少年。
少年 「なんだよーっ! ウソつくなよ、返せよどろぼーうっ!」
ヒステリー状態。ベッドのマットを引き裂いたりしてる。
裸足で庭にでたすわん、茶色の瓶からインゴットを取りだす。
すわん 「だれか警察よんでーっ!」
少年が振り返り、大股ですわんに向かってくる。
インゴットを塊のまま、脇にあったバケツとジョウロに一個ずつ投げ入れ、少年の振り下ろしたナイフをかわす。
背中を向けた瞬間、肝臓を刺されるすわん。
驚いて手を当てると大量の血がついている。
再び刺そうとする少年、すわんに突き飛ばされ転ぶ。
Tシャツにすわんの血がつく。
起き上がろうと、もがく少年の前に、力なく崩れ落ちるすわん。
すわん 「あつい……」
手のひらを見る。構え直そうとする少年。
派手に爆発するバケツとジョウロ、庭の隅にある、朽ちた車の窓ガラスにひびが入る。
近くの通りで、人や自転車が立ち止まる。吹き上がった水とともに、沢山の火のかけらが降り注ぐ。
Tシャツに火がついてパニクる少年、何かわめくとナイフを捨てて、逃げ出す。
爆音に驚いた人たちが集まってくる気配。
青々とした畑に横たわるすわん、周りに無数の小さな青い火が燃えている。
朦朧とするすわん、蒼すぎる空、大きすぎる入道雲。
すわん 「空だ」
ゆっくりと息をする。
すわん 「パパ、ママ、ハルチカ」
涙が流れ落ちる。
すわん 「あたしも土に還るの……」
畑を見る。
すわん 「野菜になるんだね、あたしのからだ……ハルチカに食べられるならいいな」
近所の人たちが駆け寄ってくる。声を掛けたり救急車を呼ぶ旨等言っているが、もう聞こえない、見えない。片手を空中に伸ばすすわん、覗き込む見知らぬ誰かに問う。
すわん 「また、産まれるかな、あたし」
最後の涙、掴めなかった手。
(以下次号)
2007年1月15日号掲載
▲page
top