騒然とした室内、殺人事件の報せに色めき立っている。
刑事1 「あの課長、どうもこの、少年による殺しなんですが、ガイシャが ウチで留置してる、村上ハルチカの身元引受人らしいんですよ」
課長 「ああっ?」
立ち上がる。
足を投げ出して座っていたハルチカ、ふと立ち上がって窓に近づ
く。
窓からオフィスビルが見えてる。
忙しそうに働いてるサラリーマンから、風景へ。
東武デパートの屋上、昼間から酔いつぶれてる礼服のおじさん、
若い子供連れ。
駅のホーム、いじけた孫に責められて困ったように笑いながらな
だめてるお婆ちゃん、学校帰りの学生さん、風にそよぐ緑、お米
の収穫、街をゆくカップル、全て最高に幸せな景色。
荷物をバッグに詰めているハルチカ。
すわん 「ホントにいくの?」
ハルチカ 「うん」
棚の小瓶を玩びながら、つまんなそうなすわん。
すわん 「あのさ、この中に入ってるのって、なに?」
ハルチカ 「ああ、金属ナトリウム。水に入れると水素噴いて爆発すんだ。近 所の高校からかっぱらってきた」
すわん 「ふうん……」
棚に瓶を戻す。
すわん 「面会とかってあるんでしょ、行くから」
ハルチカ 「いいよ別に……」
準備が済み、キーホルダーからアパートの鍵を外し、すわんに手
渡す。
ハルチカに抱きつくすわん。顔を寄せ抱きあう二人。
すわん 「……かたいよ」
ハルチカの股間を撫で、顔を上げ微笑む。
ハルチカ 「しょうがねえだろ……」
顔を逸らす。腕に力を込めるすわん。
すわん 「帰ってきたらさ、思いきりやろうよ。もう他の人としたり絶対し ないから」
くちづける。
ハルチカ 「すわん」
困ったような顔で体を離す。
すわん 「なに。いいよそういうの」
ハルチカ 「なにが」
すわん 「なんとなくだけど、でも凄くわかる。ハルチカの胸の中の、言葉 じゃないなにか」
ハルチカ 「ふん、まあいいよ」
荷物を取り、肩にかける。
すわん 「嬉しいよ、でもいつかの未来に一度でいいから愛してるって言っ てね。真心から」
少し驚いて顔が歪むハルチカ、すぐに吹き出して腹を抱えて笑う。
これは、本当に嬉しいと、笑う。
すわん 「なに? なんで笑うのよう」
すわんも、嬉しくて嬉しくて、笑う。
ハルチカ 「わかったよ……」
ハルチカを見つめるすわん、切実な、祈るようなこころ。
ハルチカ 「未来な。……じゃあ行くわ」
靴を履こうと身をかがめるハルチカ。
すわん 「ハルチカ!」
叫ぶすわん。 振り向くハルチカ。輝くような笑顔で、両手を広げたすわんが涙ぐんでいる。
すわん 「すべてを変えて!」
発光する世界。
(了)
2007年1月22日号掲載
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