缶コーヒーを飲みながら走って準急電車に飛び乗り、血相変えてアパートのベルを鳴らすと、
――入って。
と、すずねの声がした。
手応えも何もなくドアが開く。見ると、ダイニングの先の六畳の真ん中にすずねが正座していた。向かい合って、同じぐらいの年頃の女の子が座っていた。すずねは、唇を突き出してほほをふくらませ、困ったような顔をしている。膝の上に置かれた手でしきりにグーとパーを交互につくりながら、
「ほんとごめん、無理言って」
と、要を見て言った。要は、息を切らして心配してかけつけたわりには、大したこともなさそうだったので、上がり框に腰かけて後ろ手をつき、土間に足を投げ出し、不機嫌を装った口調で不満をもらした。
「あーあ。なんなんだよ、いったい」
「ほんと、ごめん」
すずねはまた繰り返した。
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