turn back to home「週刊電藝」読者登録

    text/税所たしぎ

 

 

 

 

 そのころわたしは、そういう奥様づきあい以外に、夫の一族の会社にも、子供ができるまでということで携わらせてもらっていた。大学出たてのお嬢様――そう見られていた――に重大な責任ある仕事が任されるわけもなく、得意先回りといってもふだんの社交のような感じで、社員食堂部門の別会社『SENGETSUフードサービス』の入っている先を回ってアンケート調査をしたり、新メニューの試食会を催したりといった程度だったが、社交や家事だけでなく、さらに仕事でも夫やその一族に認めてもらいたいという欲もあって、わたしは老人家庭向けの給食サービス業の企画を密かに立て始めた。
 最初にそれが浮かんだのは、「彼」と何気ない世間話をかわしていたときだった。「彼」の病院にも『SENGETSUフードサービス』の経営する食堂があって、季節メニューの試食会に「彼」も出席してくれて、ああ、あなたとはあのとき以来ですねなどという話になり、それぞれの家庭の近況など話しているうちに、退院した患者さんの食生活に話がおよび、低カロリー食や減塩食に神経を使う家族の話になり、そういえばこの地域にはそういうデリバリーの業者がないのでレトルトのセットを勧めているという「彼」の言葉を聞いて、わたしは身を乗り出した。やろうかしら、わたし、というと、いいですねえと「彼」はにっこり笑った。
 そのときには「彼」とそうなるとは思ってもみなかった。
 わたしは生まれて初めて恋をしたのだ。

□  □  □

 二人のお母様は、私が小学部の教師をしていたころの教え子でした。よく覚えています。何しろ一人はこの地方では知らぬ人はいない名家のお嬢様でしたし、一人は当校始まって以来の才媛と期待されておりましたから。彼女らは本当に仲がよくて、学校の中で二人が一緒でないところを見たことがない気がします。彼女らが小学部を卒業してまもなく私はこちらの幼稚園に移りましたが、いままたこうして二人を見ていますと、本当に当時のことがよく思い出されます。
 お母様たちは見た目は対照的でしたが、この子たちは外見も本当によく似ていて、ときどき間違えてしまうほどです。本人たちも、それがおもしろいらしくて、よく同じ髪型にして同じ髪飾りをつけています。そして一緒に買っていただいたのよとうれしそうに言ったりしています。
 こころのふたごちゃんね、と申しますと、とてもうれしそうにきゃっきゃっと笑っておりました。というのも、お母様たちに聞いたお話では、二人の幼い少女にはこのような縁があるのだということなのです。