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    text/税所たしぎ

 

 

 

 

 お二人がお互いに、内緒のお話があるの、私もよ、ということで会われたとき、その内緒のお話というのは、どちらも初めての子供を妊娠したらしいということだったそうです。不思議ね、いくら何でも気が合いすぎねと、同じ病院に通い一緒に妊娠中もなかよく過ごされたのですが、佐久田さんがいよいよ陣痛が始まったらしいということになり、病室で待っている間どうにも心細くて田添さんをお呼びになったのだそうです。だんだん陣痛の間隔が短くなりそろそろ分娩室へというそのとき、ベッドのかたわらで励まし続けていた田添さんもお腹が痛くなってしまいました。一緒にいた佐久田さんのだんな様、この方はお医者様ですが、両手に花ではありませんが両手に陣痛に苦しむ妊婦には、相当お慌てになったようで、いつだったか、佐久田さんはそのときのことを思い出しても笑いが止まらないというご様子でお話ししてくださいました。
 そして大慌てで田添さんのだんな様もかけつけ、主治医の見立てでは、これは田添さんもきょう赤ちゃんが生まれるだろうということになり、お二人とも数時間の差でなかよくその日のうちにお嬢さんを出産されたのです。どちらのご家族もあまりの仲良しぶりに、ことのほかおめでたくお感じになったということです。
 お名前も、これはまったく偶然なのだとおっしゃるのですが、当世はやりの外国人の娘さんのような名前ではなく、田添百合子、佐久田桃子と花の名のつく床しいお名前をおつけになって、おりおりに助け合い励まし合い悩みを打ち明け合いながら、初めての子育てをされたそうです。二人の赤ちゃんは、育ち方からしてまるで双子のように一緒に大きくなっていったといってよろしいかと思います。
 いま私は、田添さんのお子さんが百合子さん、佐久田さんのお子さんが桃子さんというふうについ間違えて申し上げてしまいました。田添さんのお子さんが桃子さん、佐久田さんのお子さんが百合子さんでした。私は教師生活も長く子供の名前を覚えるのはわりと得意なのですが、この二人のお子さんの場合、つい取り違えて呼んでしまうことがあります。
 見た目が似ているからということはもちろんありますが、よくよく考えてみると取り違えてしまう原因はそのほかにもありそうです。