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    text/税所たしぎ

 

 

 

 

 彼は、だからといって仕事に手抜きをするような人ではなかった。進学校のカリキュラムをかなり意識した計画にそってわたしの受験勉強の予定表は順調に進んでいた。そして私は当時は知的な禅問答のように思えた恋愛論の後に、まるでご褒美のように抱きしめてもらうことを望んだ。
 あの人に言ったとおり、バレエもピアノも琴も習い事は受験勉強を理由にすべてやめて、わずかな時間を惜しんで、私は彼を欲した。いま考えれば単に恋して欲情していただけなのだが、私はそのころ変わらなければとひたすらあがいていた。
 お姫様気取りで何様のつもりやら。そう最初に言ったのはだれだったんだろう。陰でひーさんと呼ばれてることを知ったのはいつだっただろう。桃子は知ってて黙ってた。なんとなく周囲から浮いてしまっていた私には、学校は息抜きの場ではなくなってた。母が乳ガンにかかり、家の中もあわただしくなっていた。
 お姫様気取りのひーさん、そう呼ばれていることを知った私は、恥ずかしくてたまらなかった。自分の一番いやな姿をさらし者にされているような気がした。、消え入りたくなっそれでも、自分がそう思っていることを決して他人には知られたくなかったし、学校での自分のふるまいを変えて、そのあだなを気にしているそぶりを人に見られるのもいやだった。
 例えば制服をみんなのように着崩せばよかったのか。桃子だって、母親に怒られるのを怖がっていたが、ウエストを一回だけ巻き込んでスカートを短くした。県立の子たちが腿をむき出しにして歩いているのを横目で見ながら、私たちの学校の生徒も、先生の服装チェックを逃れて膝小僧をどれだけ見せるかに労力を費やしていた。