text/税所たしぎ
p r o f i l e

 

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前回

 再び波待ちのポイントに浮かび、遠く駐車場にとめられた自分の紺色のワンボックスの軽自動車を返り見る。深く考えもせずちょっとしたサーフトリップに誘った少年時代の友人、男女を意識し始めたグループの中で距離を置きながらも心の通うひとときを共に過ごした女友達。

 校則ぎりぎりにゆるく編まれた三つ編み。月日がたつごとに膝からの距離が増えていくスカート丈。学校を休むたびに届けられたノート。互いに親連れのショッピングセンターでの邂逅。たびたび目のやり場に困った胸のふくらみ。下級生からの告白についての相談。学校帰りの小学生みたいな買い食い。大勢の前でしかも冗談めかさなければ受け渡しができなかったバレンタインチョコ。

 脈絡もない断片が浮かぶ。懐かしさが先立って連れてきてしまったが、こうしてすっかり海に心をとらわれている自分を省みると、よかったのかどうか心配になる。そして、現在つきあっている三歳下の奈々海にこのことを内緒にしてしまったのが気にかかってくる。

 何ら後ろめたいことはない。急に出勤になってしまった奈々海と平日休みの涼のスケジュールが合わなかっただけだ。ただ時折とんでもなく焼きもちをやく彼女には、そのまま言わないでおいたほうがよい気はした。

 先ほどの様子ではてっきりまだ夢の中だろうと思っていたが、防波堤の石段にうずくまる人影は美李かもしれない。まんまるく膨らんだみかんのような目立つ色のダウンジャケットは涼のものだ。こちらに気づいているだろうか。

 

 ドライブの心地よい振動の子守歌なしに、軽自動車の実用的な固いシートでそういつまでも寝ていられるものではない。美李は目が覚めていたが、涼との遠出が、夜が明けゆくにつれなぜか気まずくなり、眠いふりをしたのだ。 

 駅前のチェーンの居酒屋で健全な昔話で盛り上がり、現在の自分たちと過去の自分たちの間にきっちり線を引いた上で、酔い半分に「昔好きだった」と戯れる。嘘ではないが、いまにつながる意味はない。大人なのだからおふざけの限度はわかっていたつもりだ。

 中学生のころ憧れていたサーフィンを高校に入ってから始め、いまでも続けているのだと、涼は言った。ある時期までは、美李にとても近いところにあったサーフィンという言葉。いまではほとんど思い浮かぶこともない言葉。

 頭の中で小さなスイッチが切り替わった気がして、涼から、このあと少し寝たら夜中に出発して伊豆に行くのだと聞いたとき、思わずついていくと言ってしまった。おまけに別に海は好きじゃないけど、と、口が滑ってしまった。

 

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      2005年7月3日号掲載