p r o f i l e

 

 先日、『レーベルブック2』という本が出たので買ってみた。60年代から70年代に活躍したレーベル、ヴァージン、カリスマ、ドーンなどのレーベルからリリースされたレコードを網羅し、ナンバー順に解説した本だ。完璧なディスコグラフィーとなっている。もちろん「2」というからには「1」もあるわけで、「1」にはハーヴェスト、ヴァーティゴ、アップルなどのレーベルが収録されているらしい。こちらはまだ見ていない。

 こういうディスコグラフィーはマニアにはたまらない。これを見ていて、かつて阿木譲氏が1980年に出した『ロックエンド』という本の巻末にあったディスコグラフィーを眺めながらレコード収集をしていた頃を思い出した。

 阿木譲といえば知る人ぞ知る、ロック評論家で、70年代から80年代に「ロックマガジン」という雑誌を関西で出していた。実に鋭い感性で、まだ日本には知られていなかったレコードを次々に紹介していた。彼に対しては毀誉褒貶があり、好む人と好まない人がいるが、当時ぼくは信頼していた。昨年篠原章が出した『日本ロック雑誌クロニクル』という本にミュージックライフ、ニューミュージックマガジン、ロッキングオンなどと並んでロックマガジンが紹介されている。篠原はロックマガジンをリアルタイムでは読んでいなかったらしいが、調べていくウチに、その独特のセンスに魅せられていく様が描かれていてとても面白かった。

 さて次のプレイリストは、2005年11月29日にやったもの。


01
Yummy (Mr.Nignt Lifes One Mix) / Andy Hughes
Electroacidfunk 3 というリミックスアルバムから。DJ Voodoo と書いてある。クリス・ヘイルがサンディエゴ(?)のCD屋で偶然見つけたと言っていた。彼に借りて聴いていてとても気に入ったもの。テクノビートの上に重なるピアノが美しい。

02
UBUD / Pigbag
ピッグバッグは、The Pop Group 解散後のバンドのひとつ。以前1曲流したが、これも同じアルバム Lend An Ear から。 ファンクなんだけど、リズムが複雑なので、テクノから繋げてもあまり変に感じない。

03
Tour De France Etape 1 / Kraftwerk
今回の目玉はこれ。クラフトワーク! 言わずと知れたテクノミュージックの創生期の代表選手。1970年代からドイツで活躍。テクノというジャンルを確立する大きな役割を果たした。日本のYMOにも大きなインスピレーションを与えたことでも有名。

1980年初頭にはちょっと古いというイメージがあった。が、何年か前に自分で自分の過去の作品を取り直した Mixというアルバムを出し、これの中には仰天するほどカッコイイ作品が何曲かある。進化するクラフトワークという感じがした。

かつて同時期に Tangerine Dream というバンドもあって、電子音楽を推進する2つの大きな極となっていたが、再評価著しいのは Kraftwerk の方である。ポップだからだろうか。ポップであることは胡散臭さと紙一重だが、それを隔てるものは何だろう。

ところで、これは最近の作品。これが何とも格好いいのだ。まるで新しいアーティストがやっているようなテンポの早い現代的なテクノ。聴いていたお店のマスターが「カッコイイね」と言ってたっけ。

04
Searching for a Feeling / Maximum Joy
第1回にもかけた Maximum Joy。とても気持ちがいい。

05
Shake Up / A Certain Ratio
A Certain Ratio は、Joy Division なきあとの Factory Records の看板バンドだった。最初、何枚か12インチシングルを出した後で To Each... というファーストアルバムを出した。その12インチを始めて聴いた時は衝撃を受けた。特に Foxという曲の出だしのドラム。なんてカッコイイのだろうと思ったのだ。

Early という初期の作品を集めたベスト版CDが出ているが、その中に彼らの映像が収められている。みんなで、スティックで何かを叩いている映像。それが曲になる。つくづく「叩き屋」なんだなあと思う。

しかし残念なことに彼らは次第に輝きを失っていく。酷なことを言うようだが、それはファーストアルバムにすでに予兆されていたとぼくは思っている。なぜならファーストアルバムの前に出した2枚のシングルを越えることができていなかったからだ。

06
Heart and Soul / Joy Division
彼らの名前を何度も出していながら、いままで Joy Division をかけていなかったのは、この場所がカフェだからだ。果たしてカフェで JD をかけていいのだろうか。しかし A Certain Ratioからこの曲ならば繋ぎやすいかなと思った。この曲は、彼らのセカンドアルバム Closer から。ぼくのフェイヴァリットだ。鋼のようなドラムとベース。地の底からわき上がってくるようなボーカル。暗いと言って彼らの音楽を敬遠する人はこういうのが苦手なのだろう。ぼくは大好きだ。プロデューサーの Martin Hannett の力も偉大。

07
Stock Exchange / Miss Kittin and The Hacker
第1回にもかけた Miss Kittin & The Hacker。何と Heart and Soulから繋ぎやすい。何でだろう。ビートの問題だろうか。

Miss Kittin は First Album と I Com という2枚のアルバムを持っているが、First Album の方がずっと好き。Miss Kittin on the Road というリミックスアルバムもある。

08
Snake Charmer / Jah Wobble + The Edge + Holgere Czukay
この3者が組んだ12インチシングル Snake Charmerから。ぼくがこのレコードを買ったのはいつだろう。たぶん1983年ぐらいだろうか。実を言うとあまり聴いていなかった。何故だろう。最初あまり好きではなかったのだが、聞き直してみると紛れもなく Holger Czukayである。そしてまたしても Jah Wobble の重厚なベースのうねり。そして、Czukay のホーン、ピアノ。美しくてポップ。たぶんこのポップさを当時のぼくは嫌ったのかも知れない。だがとても気持ちいいではないか。

09
Big Business / David Byrne
第2回の時に、Talking Heads の Remain in Light から Listening Windを、そして第3回の時に、Brian Eno と David Byrne のコラボレーションアルバム My Life in the Bush of Ghost から Help Me Somebody をかけた。

今回は David Byrne の同時期のソロアルバム The Catherine Wheel から。舞台用の音楽として作ったサウンドトラックだが、傑作である。この当時のDavid Byrne の特色としてのエスニック色豊かな楽曲。

10
Green Grass of Tunnel / Mum
Sigur Ros についてはすでに紹介したが、彼らのアイスランドのレーベルFatcat のアーティスト。シガーロスよりもカワイイ。こういうタイプの音楽を何と言うのだろう。1980年頃なら「ロック反対派」とか言っていたような気もするが。つまりロックではないということ。実際、ロックは好きではないと言ってこういうタイプの音楽を好む人々がいる。その気持ちはよく分かる。しかし名前がないということはどういうことだろう。

11
The Whole / Wim Mertens
ウィム・メルテンの音楽にも名前がない。iTune に入れると、ジャンルの欄には new age と出てくる。だけどそれもちょっと違うなあと思う。

12
Bead / Anna Domino
前回かけようとしてかけられなかった Anna Domino。ベルギーのクレプスキュールの歌姫。イザベル・アンテナと並んで二大歌姫と言われたが、ぼくはアンナ・ドミノの方がずっと好きである。古い言い方になってしまうかも知れないが、アンニュイなのである。

しかし実を言うと、ぼくはこのアルバム Mysteries of America をもう10年以上前に中古CDショップで見つけて、クレプスキュールだという理由で買って、ろくに聞きもしないでずっと放っておいた。先日書棚の中に書籍に混じってつっこんであるのを偶然見つけて聴き直し、とても良いことが分かった。実にさりげない楽調。そのさりげなさが素晴らしいのだが、さりげない素晴らしさほど厄介なものはない。一度聴いただけでは気が付かないで通り過ぎてしまうこともあるからだ。

2006年2月27日号掲載

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