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『少林サッカー』のバスケット・ボール版と説明するのが一番手っ取り早いだろうが、決して二番煎じではない面白さだ。鳴り物入りで公開される超大作や、通がこぞって注目する有名監督の最新作を鑑賞するというのも映画を楽しむ方法の一つだが、思い掛けない快作・秀作と出会い、それを口コミで広めていくという楽しみもまたこたえられないものがある。
カンフー学校で育った孤児が、ひょんなことからバスケット・ボールのスター選手になり注目を浴びるという簡潔なストーリーには、さして目新しさは感じない。しかし、本作はそこが良いのだ! <老若男女を問わず、誰にでも楽しめる> というのは、大衆娯楽たる映画の重要な役割にして、本来の在り方=王道と言える。その道のど真ん中で、本作は私たちに手招きをしている。その招きに応じてチケットを購入し、劇場のシートにその身を預ける。それだけで良い。遊園地の人気アトラクションと同じで、作品に身を任せれば良いだけだ。楽チン、楽チン!
なんせ、本作、この夏、筆者が大いにおすすめする隠し玉筆頭である。鑑賞後に筆者が抱いた感想は、キャッチ・コピーと全く同じもの。『カンフー・ダンク!』、メガすげェェェェェー!!!!
本作成功の最大の鍵は主演に台湾出身のスター:ジェイ・チョウを起用したことだ。天才作曲家として注目を浴び、今や日本を含めた全アジア・ミュージック・シーンの頂点にまで上り詰めた彼の勢いは凄まじく、映画界でも大旋風を巻き起こしつつある。日本での銀幕デビューは『頭文字[イニシャル]D THE MOVIE』(2005)でいきなりの主演。次いで中国映画界の巨匠チャン・イーモウ監督の『王妃の紋章』(2006)で重要なサブ・キャラクターを演じるなど、既にアジア映画好きの女性映画ファンの間では注目されていた存在であったが、それが今年一気に大ブレイクするに違いない。2008年は、日本における記念すべきジェイ・チョウ元年となるのだ!! そう断言できるほど、本作のジェイ・チョウはスター性に溢れている。端正なルックス、とぼけた表情とはにかんだ笑顔の絶妙なバランス、試合中に見せるしなやかな身体の躍動。それらの全てが渾然一体となって、ジェイ・チョウというスーパー・スターを作り上げているのだ。劇場に溢れる黄色い歓声が既に思い浮かばれるほどである。加えて、チェン・ボーリンやバロン・チェンといったイケメン俳優が揃っているため、女性ファンであればもう卒倒物であろう。しかし、やはりジェイ・チョウの魅力はその群を抜いている。彼が素晴らしいのは、その魅力に射抜かれるのが女性ファンに限らない点である。これこそが真のスターが持つカリスマ性というものではないだろうか? 例えば、日本映画界では、古くは小林旭がそのカリスマ性を有していた。最近では、赤マル急上昇中の松山ケンイチが近い存在かもしれない。
しかし、映画はスターの魅力だけで成り立つものではない。スターの魅力を生かすも殺すも演出・脚本次第と言える。その点、本作は、ツボを押さえた作劇が実に小気味良い。香港映画界で30本以上の娯楽映画を作り続け、本作では共同脚本も手掛けているベテラン監督チュウ・イェンピンの底力を見せ付けられた思いだ。ドラマ部分だけでなく、見せ場となるアクション・シーンでは、世界的な名声を博するアクション監督チン・シウトンがやはり素晴らしい手腕を発揮している。ここに、エリック・ツァンやン・マンタといった名バイプレイヤーが実に楽しそうにそれぞれの演技を披露していて、香港映画ファンにはたまらないものがある。ヒロインを演じるシャーリーン・チョイの可憐さも見逃せない。実に面白い作品に仕上がった。見れば得する、見なきゃ損する隠れた逸品…… いや、このような快作を隠しておく手はない!! 映画ファンの口コミで大ヒットという表舞台に導きたい快作だ!!
P.S.
ここでトリビアを一つ。
マネージャー役のエリック・ツァンが、ジェイ・チョウに
「バスケを辞めたら映画スターにでもなるか? 儲かるぞ!」
と言うシーンがある。
これが香港映画ファンにはたまらないクスグリなのだ。
今でこそ小太り体型のエリック・ツァンだが、実は彼、元々は大人気のプロサッカー選手だった。
スポーツ界から映画界に転進して大成功を収めた先駆者なのである。
このことを知っていれば、より本作を楽しめること請け合いであるから、最後に御紹介した次第。
カンフー・ダンク! http://www.kf-d.jp/
原題 KUNG FU DUNK
2008年 台湾/香港/中国 98分 配給:角川映画
監督:チュウ・イェンピン
出演:ジェイ・チョウ、シャーリーン・チョイ、チェン・ボーリン、バロン・チェン、ン・マンタ、エリック・ツァン、ほか
【上映スケジュール】
8/16(土)〜
東京:角川シネマ新宿、シネカノン有楽町2丁目、アミューズCQNほか
大阪:梅田ブルク7、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、TOHOシネマズ泉北、布施ラインシネマほか
京都:MOVIX京都、イオンシネマ久御山 兵庫:神戸国際松竹
そのほか、全国一斉ロードショー