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今年も、良質の作品が続々と公開されているが、中でも本作は決して見逃して欲しくない最高のラブ・ストーリーだ。
前回御紹介したCG満載の痛快スポーツ・アクション・コメディ『カンフー・ダンク!』に続くジェイ・チョウの主演作だが、本作では、なんと監督・脚本・音楽・主演の1人4役をこなすという獅子奮迅振りである。弱冠28歳にして、アジアン・ミュージック・シーンの頂点に上り詰めた彼だが、その勢いは留まることを知らず、新たなステージに向かっての更なる飛翔を目指しているようだ。
しかし、その若さやブレイクを、「勢い」の一語にまとめてしまうのは乱暴に過ぎる。ジェイ・チョウの素晴らしさは、監督・脚本に冠された「初」という文字が持つプレッシャーを難なく吹き飛ばし、「素晴らしい!」としか言いようのない見事な作品を創り出したという事実にこそある。これを世間では <才能> というのだ。それもとびきりの才能である。
ファースト・シーンからして、その才能・センスが並々ならぬものであることを知ることになるだろう。美しいピアノの旋律と共に古びた楽譜がスクリーンに現れる。流麗な音楽と共に展開される映像のセンスは、我々が抱くアジア映画のイメージを打ち砕いて余りあるもので、まるでヨーロッパ映画のよう。この映像美には、ウォン・カーウァイ監督の『花様年華』やホウ・シャオシェン監督の諸作品を手掛けたことで知られるベテラン・カメラマン:リー・ピンビンの力量も大いに貢献しているのだろうが、それ以上に、従来のイメージに縛られることのないジェイ・チョウの瑞々しい感性が鮮烈に観る者の胸に刻み込まれるはず。
本作を一言で御紹介すれば、【音楽学校を舞台として男子生徒と女子生徒のめくるめく恋愛劇】となる。しかし、これだと、いかにもありふれた作品のようで、もっと詳しく御紹介したい……、のだが、これが正にタイトルの通り <言えない秘密> なのだ。気安く語ってしまうと、ネタバレになってしまって、本作を鑑賞する楽しさが半減してしまうに違いない。そのため、言えない&書けないのである。なんとも映画ライター泣かせの作品である。しかし、それでも尚、この素晴らしさを味わっていただきたいという衝動を抑えられないので、書ける範囲で本作の素晴らしさを書き連ねてみよう。
ジェイ・チョウの魅力が存分に発揮されている。初監督で自身を演出するというのは、なかなか難しいことであろうと推察するが、この麒麟児は、本作をワンマン映画に堕することなく、監督×脚本×音楽×主演という1人1人コラボレーションを見事に決めて見せた。この才能たるや脱帽物である。ダンス・シーンやピアノでの演奏対決シーンといった、スター映画としての見せ場をポイントとして配置しているが、見せ方を心得ており、実に上手い! 特に後者では、天才作曲家としてそのキャリアをスタートさせた音楽家:ジェイ・チョウの実力が垣間見える上、本来、耳で楽しむ音楽を、目でも驚かせてくれると同時に、大いに楽しませてくれる。これぞ総合芸術たる映画ならではの魅力と言えよう。しかし、そういった見せ場は枝葉であり、根幹は先にも記したように恋愛劇である。その点、本作は、恋愛映画としての正面と、音楽映画としての側面を持ち合わせているわけだが、そのバランスも見事だ。幹がしっかりしていてこそ、枝葉が繁り、華麗な花を咲かせるということを、ジェイ・チョウは正しく理解しているに違いない。
ヒロインを演じるのはグイ・ルンメイ。デビュー作『藍色夏恋』で見せた透明感に更なる磨きがかかり適役だ。ジェイ・チョウの父親には、香港映画界の名優:アンソニー・ウォンが扮し、これまた素晴らしい。『頭文字[イニシャル]D THE MOVIE』(2005)でも、2人は父子役で共演しているが、そこで意気投合したのであろう。普段はエキセントリックな悪役を演じることが多く、そのことについて「金のためだよ!」と公言してはばからないアンソニー・ウォンだが、常々「しっとりとした感動作や芸術作品に出たい!」と願っていた。その願いが、叶えられた嬉しさが、本作での味わい深い名演に繋がっているのだろう。若手・ベテランのバランス良い配置が活きた。
伏線の張り方も見事で、何度でも見たくなる。リピーター割引なるサービスが実施されるので、是非御利用いただきたいところ。
ミュージシャン&俳優としてのジェイ・チョウを愛する女性ファンだけでなく、映画監督としてのジェイ・チョウは、老若男女問わず、全ての映画ファンにとって大いなる発見に違いない。もう、両手を上げて絶賛してしまう。胸を締め付けられ、涙がハラハラと流れた後、清々しい感動が残る傑作だ。
言えない秘密 http://www.ienai-himitsu.com/
原題『不能説的・祕密』
2007年 台湾 102分 配給:エイベックス・エンタテインメント
監督・脚本・音楽:ジェイ・チョウ
出演:ジェイ・チョウ、グイ・ルンメイ、アリス・ツォン、アンソニー・ウォン
【上映スケジュール】
8/23(土)〜
東京:新宿武蔵野館
9/13(土)〜
大阪:テアトル梅田
京都:MOVIX京都
神戸:シネカノン神戸
そのほか、全国一斉ロードショー