銀幕ナビゲーション-喜多匡希

R246 STORY

【国道246号線から手招きする6人の才能:
オムニバス映画の楽しさ】 あとで読む

落語娘

【国道246号線をモチーフに6人の俳優やミュージシャンが映画監督として競作する】という企画はどこか奇を衒っての新味追求というイメージであったが、実際に鑑賞してみると、やはり真に秀でた者の才能というのは他分野にお も活きるということを思い知らされた。6作品それぞれに独自の才覚が漲っている。その才覚は、個性という形で見事に表現されていて似通った作品が一本もない。実にバラエティに富んだ作品が揃ったものである。オムニバス映画というのは、作品が切り替わる度にどうしても観客の集中力が一旦途切れる。そこで、「あ、これはなんだかさっきの作品と同じような感じだよなあ……」と感じてしまうと、もうそこで充分に作品世界に入り込むことが出来なくなってしまうものなのだ。その点、本企画はその壁をまずクリアーしている。一つのモチーフに対するアプローチが、各作品で全く異なる上、なかには「ほぉ! その角度から来るか!!」という、予想外の変化球が飛び込んで来る。直球勝負の作品もあれば、変化球の作品もある。これぞオムニバス映画の醍醐味だ。

 とは言え、バラエティに富んでいるということは、観客それぞれの感性によって好みの作品とそうではない作品がくっきりと分かれることになる。となれば、ここにある6本の作品も例外ではない。これだけタイプの違う作品が揃っているだけに、よりその傾向は強くなるだろう。しかし、それもまた面白いものである。誰かと一緒に鑑賞したならば、帰り道にそれぞれの視点で語り合うことが出来るし、インターネットで様々な批評・感想を目にすることも出来る。そこから、全く新しい着眼点・見方の存在を知ることも、大きな収穫であるからだ。

R246 STORY
R246 STORY
R246 STORY
R246 STORY
R246 STORY
R246 STORY
R246 story
R246 STORY

 筆者の場合、群を抜いて3が面白かった。他の作品が全て劇映画である中、この作品だけがドキュメンタリー映画であったことの意外性が新鮮味に繋がったというのもあるが、なにせ作品自体の完成度がすこぶる高い。国道246号線を出発点としていながら、日本のHIP−HOPシーンを俯瞰している。その視点が <過去→現在> に留まらず <未来> をもしっかり見詰めている前向きさに感動した。VERBALの構成力に舌を巻かざるを得ない。「彼の長編作品も見てみたい!」と強く思わせるのだから、本物だ。

 次いで1と6を推したい。1はオムニバス映画の一発目= <ツカミ> として申し分ない役割を充分に担った。いきなりオープンカーに乗った清水の次郎長が現れるという意外性が、「おっ! なんだ、なんだ?」と観客を惹き付けて止まないのだ。時代劇と現代劇を混ぜ合わせつつ、ドキュメンタリー性も違和感無く、かつ効果的に織り交ぜている。トリを飾る6は、ユースケ・サンタマリアの演出力と演技力の確かさに驚いた。今、ノリにノッている永作博美の上手さは言うまでもないが、それだけでは作品はまとまらない。実に地に足のついた恋愛劇の秀作だ。オムニバス映画では、上映順も一つの演出だと考えているが、ここまでに挙げた1・3・6の配置が見事に決まっている。

 かといって、2・4・5が全くダメというわけでも無かったのが嬉しいところ。それぞれに難があると感じたり、思っていたほどではないと感じた作品があるのは否めないが、やはりそれぞれに個性があり、輝いている部分もある。2は、須藤元気の持つ <生真面目さ> が少々カタく感じたが、そこから生まれる <突飛な発想> が見事に決まる瞬間は良い意味で予想を裏切ったし、4は脚本の練りが足りないと感じたが、ILMARIならではの音・音楽の出し入れに才気を感じた。唯一人、これまでに監督経験のある浅野忠信による5は、些か停滞を感じさせたが、監督・作家としても有名な青山真治が脚本を手掛けていることと、豪華俳優陣の共演というコラボレーションが賑やかだ。

 と書いたところで、やはりこれは筆者の好みであって、また違う意見も多数出てくることであろう。繰り返しになるが、これこそがオムニバス映画の醍醐味だ。それぞれの視点で、それぞれのお気に入り作品を見つけていただきたい。宝探しゲームにも似た楽しさがここにある。

R246 STORY  http://www.r246s.jp/

2008年 日本 147分 配給:ゴー・シネマ
(6作品オムニバス映画・上映順)

1.『JIROル−伝説のYO・NA・O・SHI』
監督:中村獅童
出演:中村獅童、的場浩司、大杉漣、中村ゆり、ほか

2.『ありふれた帰省』
監督・共同脚本:須藤元気
出演:須藤元気、津田寛治、眞島秀和、林雄大、諏訪太郎、ほか

3.『DEAD NOISE』(ドキュメンタリー作品)
監督・構成:VERBAL(m-flo)

4.『CLUB246』
監督・共同脚本:ILMARI(RIP SLYME)
出演:石田卓也、HARU、ほか

5.『224466』
監督:浅野忠信
出演:浅野忠信、加瀬亮、永瀬正敏、豊原功補、新井浩文、大森絢音、ほか

6.『弁当夫婦』
監督・共同脚本:ユースケ・サンタマリア
出演:ユースケ・サンタマリア、永作博美、ほか

【上映スケジュール】
8/23(土)〜  
東京:渋谷Q−AXシネマ、新宿バルト9
神奈川:横浜ブリリアショートショートシアター
大阪:梅田ガーデンシネマ、シネマート心斎橋
9/6(土)〜
兵庫:109シネマズHAT神戸
そのほか、全国ロードショー

2008年8月18日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
ご感想をどうぞ ▲comment top

  ハンコック | 落語娘 > >>

▲このページの先頭へ


w r i t e r  p r o f i l e
turn back to home | 電藝って? | サイトマップ | ビビエス