銀幕ナビゲーション-喜多匡希

シャカリキ!

【ガムシャラではなく
シャカリキであるということ】 あとで読む

シャカリキ!
©2008「シャカリキ!」製作委員会

 自転車ロードレースを題材とした青春スポ根映画。曽田正人による同名マンガが原作とのことだ。

 タイトルとなっている「シャカリキ(釈迦力)」の意味は「躍起になって頑張ること。一所懸命に頑張ること」。お釈迦様が人々の幸せのために力の限りを尽くしたという故事が語源となっている。一見、「シャカリキ」と良く似た言葉に思える「ガムシャラ(我武者羅)」は「勢い込んで向こう見ずに突き進むこと」という意味で、目標に向かって闇雲に突撃する様を示す。つまり、「ガムシャラ」は「猪武者いのししむしゃ」や「猪突猛進」という言葉に繋がるもので、イマイチ頭が宜しくないという意味を含んでいる。

ハンコック
©2008「シャカリキ!」製作委員会
ハンコック

 本作の主人公である日の本大学付属亀ヶ丘高校(通称・亀高)1年生・野々村輝(通称・テル)は「ガムシャラ」な若者だ。負けず嫌いで頑張り屋。良くも悪くも熱血漢である。まさしく向こう見ずで無鉄砲な、一直線な性格の持ち主。そんなテルが、ひょんなことから廃部寸前の自転車部に入部。チャリンコとロードレーサーの区別もつかないド素人のテルだが、自転車部監督の由多比呂士はそんなテルに大いなる才能を見出し、磨き上げていく。

 テルは上り坂に絶対の自信を持っている。“坂の町”と呼ばれるほど坂の多い関西の町に育ったテルは、周囲から「自転車で登れるわけないやろ!」と馬鹿にされながらも、街で一番長い坂を見事に登り切った実績があるからだ。上り坂を目の前にすると、テルは「坂や!!」と叫び、嬉しそうな表情を浮かべる。その「坂や!!」というセリフが、作中に何度も登場するのだが、“坂バカ”のアダナを持つテルの持ち味である明るさと、関西弁の親しみやすさが相まって効果を上げている。ベタなストーリーではあるが、ポイントポイントを押さえた丁寧な演出で思わず引き込まれてしまうのだ。また、言うまでもなく、登場する上り坂は“人生における壁・逆境”を示している。その上り坂を、これまでのテルは己の忍耐・努力・根性のみで全て突破してきたというわけだ。

ハンコック

ハンコック
©2008「シャカリキ!」製作委員会
 しかし、テルは早々にその自信を打ち砕かれてしまう。挫折してしまう。テルの前に立ち塞がる壁は「ガムシャラ」な自分自身だ。ペース配分を考えない、チームメイトと協調しない、周囲の意見を聞かない。そんな「ガムシャラさ」がテルを打ち砕くのだ。「なんでや!? なんで勝たれへんのや!?」と悩むテル。ここで彼を助けるのが、チームの面々や監督・マネージャーといった仲間たちである。ここで示されるのは連携・強調することの大切さ、つまり“1人で越えられない壁でも、仲間と力を合わせれば乗り越えられる!”ということだ。スタンドプレーではいけない。ここで、テルは「ガムシャラ」から「シャカリキ」へと成長していく。その様子が熱く清々しい感動を呼ぶのだ。

 メインとなる高校生3人には、若手俳優集団D-BOYSの遠藤雄弥、中村優一、鈴木裕樹が扮し、若さに溢れた演技で好印象。一方、その若さを包み込むような柄本明や温水洋一といった大人の俳優陣もキラリと光っている。中でも、由多監督を演じる原田泰三の目を見張る上手さには驚かされた。

 ツボをきっちり押さえた青春映画の快作である。

シャカリキ!  http://www.shakariki-movie.com/

2008年 日本 106分 配給:ショウゲート
監督:大野伸介
出演:遠藤雄弥、中村優一、鈴木裕樹、南沢奈央、小林裕吉、小柳友、池田哲哉、坂本真、柄本明、中越典子、中井美穂、温水洋一、津田寛治、原田泰造ほか

【上映スケジュール】
9/6(土)〜
東京:渋谷東急、新宿ミラノ、ほか
大阪:TOHOシネマズなんば、109シネマズ箕面、ワーナー・マイカル・シネマズ茨木、TOHOシネマズ鳳、MOVIX堺、MOVIX八尾
京都:TOHOシネマズ二条、イオンシネマ久御山
神戸:OSシネマズミント神戸、109シネマズHAT神戸
奈良:MOVIX橿原
そのほか、全国ロードショー

2008年9月1日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
ご感想をどうぞ ▲comment top

  ウォンテッド | イントゥ・ザ・ワイルド > >>

▲このページの先頭へ


w r i t e r  p r o f i l e
turn back to home | 電藝って? | サイトマップ | ビビエス