©2008「次郎長三国志」製作委員会 |
津川雅彦が、監督名義をマキノ雅彦とした時点で、マキノ家伝家の宝刀と言える題材『次郎長三国志』に取り組むことは必然の流れだ。雅彦の叔父に当たるマキノ雅弘は、東宝で9本、東映で4本から成る『次郎長三国志』シリーズと、番外編とも言える作品を14本発表している。合計で実に27本もの“次郎長物”を監督したわけだ。
それにしても、なぜ今、『次郎長三国志』なのだろうか? と考えたとき、その答えは、2008年という年にこそある。“日本映画の父”と呼ばれるマキノ省三が、京都で撮影した劇映画『本能寺合戦』を発表したのが1908年。その息子マキノ雅弘が誕生したのもこの年だ。つまり、本年は、“京都・映画生誕100年”&“マキノ雅彦生誕100年”というW記念の年に当たるのである。「なぜ今?」ではなく、「今だからこそ!」の作品なのだ。
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しかし、その一方でプレッシャーはなかったのだろうか? 名作の誉れ高い一連の『次郎長三国志』シリーズ(特に東宝版9部作は素晴らしい!)に挑むというだけで、大きな責任がのしかかってくるのではないか? しかも、複数作品に渡ってシリーズを成していた題材を、1作品に集約するというのは、ともすれば無謀とも思える。
しかし、本作を実際に鑑賞してみれば、そのような気負いが感じられない。重苦しさとは無縁のカラっとした味わいが全編を覆っていて、いかにも江戸前の陽性な人情時代劇に仕上がっているのだから嬉しい。
中井貴一演じる清水次郎長が大変魅力的だが、周囲を彩る面々もバラエティーに富んだ顔ぶればかり。よくもまあ、これだけの俳優陣を一同に揃えたものだと驚かされた。スケジュール調整だけでも大変だったことだろう。この、往年のオールスター時代劇を思わせる賑やかさは、雅彦の広い人脈あってこそのものだ。皆、嬉々とした演技で、舞台裏の楽しさが想像される。オールスター映画はこうでなくっちゃいけない。一本の映画の中に、喜怒哀楽の全てを詰め込みながら、なおかつ上映後は「ああ、楽しかった!」と明るく劇場を後にしてもらう。それが、この手の作品の命題だ。肝だ。その点、本作はしっかりとマキノ節(雅弘節)を踏襲。同時に、音楽などで現代色を取り込んでいる。温故知新を下地に、現代日本映画志向のリメイクに挑戦している。
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ただし、クライマックスのアクション演出が些か冴えず、ドラマ部分でも幾つか間延びしてしまう部分があるのは惜しかった。サクサクとした展開の軽やかさと見せ場の畳みかけが、往年の雅弘にあって今の雅彦にない魅力であろう。今後に期待したい。
最後になったが、小政を演じる北村一輝が漂わせる男の色香と、法印を演じる笹野高史の関西弁を駆使した出色の名演は絶品! おきんを演じた雅彦の愛娘・真由子の上手さにもハッとさせられた。アンサンブル・キャストの味を存分に堪能されたし。
次郎長三国志 http://www.jirocho-movie.jp/
2008年 日本 126分 配給:角川映画
監督:マキノ雅彦(津川雅彦)
出演:中井貴一、鈴木京香、北村一輝、温水洋一、近藤芳正、笹野高史、岸部一徳、佐藤浩市、ともさかりえ、いしのようこ、とよた真帆、烏丸せつこ、荻野目慶子、草村礼子、朝丘雪路、西岡徳馬、本田博太郎、春田純一、寺田農、勝野洋、梅津栄、高知東生、螢雪次朗、六平直政、竹脇無我、蛭子能収、長門裕之、、大友康平、木下ほうか、山中聡、高岡早紀、前田亜季、真由子、木村佳乃、竹内力、ほか
【上映スケジュール】
9/20(土)〜
東京:角川シネマ新宿、シネカノン有楽町2丁目、アミューズCQN、ほか
大阪:梅田ピカデリー、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、MOVIX八尾、布施ラインシネマ10、ほか
京都:MOVIX京都、イオンシネマ久御山、ワーナー・マイカル・シネマズ高の原
兵庫:三宮シネフェニックス、神戸国際松竹、ほか
ほか全国一斉ロードショー中