銀幕ナビゲーション-喜多匡希

蛇にピアス

【蜷川幸雄、老いてますます盛ん! 
都市型青春映画の到達点!!】 あとで読む

蛇にピアス
©2008「蛇にピアス」フィルムパートナーズ

 舞台演出家として世界的に有名な蜷川幸雄の映画監督最新作。『魔性の夏 四谷怪談より』(1981)で映画初監督。連続して『海よお前が -帆船日本丸の青春-』(1981)を発表した後は舞台に専念していたが、20年以上の時を経て『嗤う伊右衛門』(2003)で再び映画界に舞い戻り、続けざまに『青の炎』(2003)を世に送り出した。このように、これまでの映画監督・蜷川幸雄は、<1年に2本を連続的に監督→長い冬眠期間→また連続的に監督> というパターンであったから、その年齢から考えても『青の炎』が映画監督としての最後の作品であるに違いないと予想した者も多いだろう。それも、まさか僅か5年のインターバルに止まるとは驚いた。しかし、真に驚くべきは、思いがけず早く実現したこの最新作が持つ、さながら研ぎ澄まされたナイフのような見事な切れ味にこそある。

蛇にピアス
©2008「蛇にピアス」フィルムパートナーズ
蛇にピアス
 蜷川幸雄は本作撮影時73歳。73歳と言えば、もう立派な“ジイサン”だ。しかし、本作はとても“ジイサン”が撮った作品とは思えない。同名の原作小説からして、著者である金原ひとみの史上最年少芥川賞受賞(20歳)が大きなニュースとなった作品である。もしも、監督の名を公表せずに本作を公開したならば、観客の大半が20代・30代の監督による作品だと思い込むだろう。ましてや、70代の“ジイサン”が監督だとは誰一人として思うまい。しかし、事実として本作は73歳の“ジイサン”が監督した現代青春映画なのである。そして、これがとびきり素晴らしい作品に仕上がっているのだから、驚くなと言う方が無理というものだ。蜷川幸雄、老いてますます盛ん。現時点で彼の最高傑作だと断言してしまおう。

 冒頭、主人公である19歳のルイ(吉高由里子)の目となったカメラが、グルリと渋谷の夜を映し出す。その導入部が、いかにもありきたりなものに思えて、ここで一抹の不安を感じたものだが、続けて若者がたむろする享楽の異空間たるクラブ内のシークエンスで、一気に引き込まれた。ルイと、彼女に興味を示したパンク少年のアマが出会うシーンだ。

アマ:「スプリット・タンって知ってる?」
ルイ:「えっ!? なに?」

ハンコック

蛇にピアス
©2008「蛇にピアス」フィルムパートナーズ
 ここに漲るナチュラルな空気感は生々しい現代感覚を刺激して素晴らしい。この自然さは、SM、ボディ・ピアス、TATOOといった、ともすればいたずらにスキャンダルなものとして描かれがちな要素に至っても貫徹されており、素晴らしい。以後、アマの兄貴分とも言える存在として、スキンヘッド+全身にピアスとTATOOという強烈な個性を持ったシバ(ARATA)が登場しても、現実感覚は揺るがない。蜷川幸雄が、吉高由里子、高良健吾、ARATAといった、目下のところ大注目の若手俳優たちが肌に刻印している現代感覚をこそ大切にした演出が成功の鍵だ。指示・指導ではなく、引き出す演出が全編にリアリティを与えている。ウネウネと蛇のように蠢く電車を捉えたイメージ・ショットが心に深く残るのも、密度の濃いドラマがしっかりと語られているからだ。本作は、ウンウンとあれこれ考えることを観客に強要しない。直接、生理に訴えかけてくる。痛み・哀しみ・苦しみの根源にある愛への飢えというテーマを、表層をなぞるのではなく、リアリティを伴って素晴らしい。本作は、黒沢清の『アカルイミライ』(2002)と並ぶ、現代日本都市型青春映画の一つの到達点である。必見!

蛇にピアス  http://hebi.gyao.jp/

2008年 日本 123分 R‐15指定作品 配給:ギャガ・コミュニケーションズ
監督・脚本:蜷川幸雄
出演:吉高由里子、高良健吾、ARATA、あびる優、ソニンほか
特別出演:市川亀治郎、井手らっきょ、小栗旬、唐沢寿明、藤原竜也

【上映スケジュール】
9/20(土)〜
東京:シネマGAGA!、シネスイッチ銀座、新宿バルト9、シネ・リーブル池袋、ほか
大阪:シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX堺
京都:京都シネマ
兵庫:シネ・リーブル神戸
ほか、全国順次公開

2008年9月22日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
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