©2008 Fortissimo Films/「TOKYO SONATA」製作委員会 |
傑作だ。やはり黒沢清はタダモノではない。繰り返そう。傑作だ。それもとびきりの、である。
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冒頭、カメラは部屋の内部から大きな窓を捉える。カーテンの様子から、その向うにある窓が開け放たれていることがわかる。カーテン越しに、眩い陽光と軽やかな風の存在も確認できる。定点に据えられたカメラは、その模様をただひたすらに捉えるのみ。静かで、緊張感に溢れた長回しに、見ているこちらは息をするのもはばかられるほどに神経をピンと張り詰めてスクリーンを見詰めることになる。この緊張感がたまらない。ただそこにある風景を映し出しているだけであるのに、そのスリリングなこと! そこにある安穏な光景と、その裏に潜む不穏な予感が、観る者の視線をスクリーンに惹き付けて止まない。
数分後、一人の女性(小泉今日子)が画面に現れる。彼女はどうやらこの家の住人という設定であるようだ。恐らく妻であり母であろう。瞬時に映画が動き出し、情報が画面から眼球を通して流れ込んでくる。この辺りは、不自然にセリフで説明することをしない黒沢清映画術の真骨頂だ。
続けて、慌てた様子で入り込んできた女性が「あらあら、大変!」といった様子で、カーテンを開ける。窓の向うは突然の雨。先ほどまでののどかさが嘘のような激しい夕立である。そうか、だからこの女性は慌てていたのだ。恐らく外から帰ってきたばかりに違いない。買い物にでも出かけていたのだろうか? きっと、窓の外には洗濯物が干してあるのだろう。ほとんど無言の中で、日常のドラマがにわかに立ち昇ってくる。素晴らしい導入部だ。
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以後、思い掛けない嵐が、家族を襲う。この家=佐々木家の主である竜平は突然リストラされ、そのことを家族に悟られないように毎日スーツを着て家を出るようになる。その妻・恵は息子にドーナッツを作るが相手にされずに不満を募らせ、長男・貴は、突然にアメリカ軍入隊を志願し、次男・健二は担任教師とギクシャクしている。家族全員がそれぞれの問題を抱え、悩み、鬱屈していくのだ。冒頭、カーテンの向うで予期せぬにわか雨が降り注いでいたように、家という殻の中でいくつもの嵐が猛威を振るい出す。しかし、この嵐は、やがてその一つ一つが重なり合い、結びつきながら、その威力を増して、更にこの家族に襲い掛かるのだ。
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香川照之、小泉今日子の目を見張る上手さにも唸った。再度、繰り返す。傑作だ。
トウキョウソナタ http://tokyosonata.com/
・第61回カンヌ国際映画祭“ある視点”部門 審査員賞受賞!
2008年 日本 119分 配給:ピックス
監督・脚本:黒沢清
出演:香川照之、小泉今日子、小柳友、井之脇海、井川遥、津田寛治、児嶋一哉、役所広司、ほか
【上映スケジュール】
9/27(土)〜 東京:恵比寿ガーデンシネマ、シネカノン有楽町1丁目、ほか
10/4(土)〜 大阪:梅田ガーデンシネマ、シネマート心斎橋、シネプレックス枚方
京都:京都シネマ
10/11(土)〜 兵庫:三宮シネフェニックス
和歌山:ジストシネマ和歌山
ほか、全国順次公開