銀幕ナビゲーション-喜多匡希

コドモのコドモ

【「まずは見てから」と言いたい】 あとで読む

コドモのコドモ
©2008『コドモのコドモ』製作委員会

「一口に子どもとバカにしてはいけませんよね。彼らは一人一人が立派な人格者ですよ。軽く見て接するなんてとんでもないことでしてね、そんなことをしていると痛い目や恥ずかしい目に遭ってしまうこと、大いにあります。そういう意味では大人も子どもないですよね」

 これは、先日、前田哲監督の『ブタがいた教室』(11/1公開)を試写鑑賞した後、頻繁に試写室でお会いするフリーアナウンサーの某氏と駅に向かって歩きながら、見たばかりの作品について歓談していた最中、氏の口から発せられたものだが、それを聞いて「ああ、至言!」と思わず膝を打つ思いだった。これは、「良い作品でしたよね。そもそも『子どものくせに』という言い回しが大嫌いなんですが、そういった大人の甘えとかズルさのようなものを取っ払った作品づくりに好感を持ちました」という僕の発言を受けてのものだったが、特に「彼らは一人一人が立派な人格者ですよ」という部分に感銘を受けた。その通りだと思う。

コドモのコドモ
©2008『コドモのコドモ』製作委員会
コドモのコドモ
「子どものくせに!」「子どもが口を出すな!」などと言うのは、“わかろうとしない大人”や“考えようとしない大人”のズルさや弱さの醜い表れであって、逃げ口上にしか過ぎない。そこで力ずくで、しかも理不尽に排斥される子どもの何がいけないのか、全く理解できない。

子どもは見ている。大人でないからこそ、見えるもの、気付くものもあるだろう。私たちが失ってしまった眼差しを彼らは有しているし、そこから気付かされることも多い。しかし、大人は彼らから“逃げよう”とすることが往々にしてある。そればかりか、“身勝手な言い分・都合”を“常識”という言葉に摩り替えて、だ。怖いからだ。真実を直視することが怖いから、面倒な出来事に直面することが怖いから、逃げる。そこで「子どものくせに!」となる。卑怯だ。

コドモのコドモ

コドモのコドモ
©2008『コドモのコドモ』製作委員会
 と、ここ最近、そういったことを常々考えていた中で『ブタといた教室』に出会ったわけだが、その他にも、“子ども”にスポットを当てた日本映画がこの秋いくつか公開となる。黒沢清監督の『トウキョウソナタ』もそうだし、ここで御紹介する萩生田宏治監督の『コドモのコドモ』も同様だ。未見だが古厩智之監督の『ホームレス中学生』(10/25)もある。世の大人たちは、この機会にこれらの映画をきっかけに、子どもと真正面から向き合う気概を持てばどうか? 自戒を込めて、そう考える次第。

『コドモのコドモ』は、タイトルそのままの作品だ。“子どもが子どもを産む”のである。ここで、「そんなスキャンダラスな!」と眉をしかめる方も多いだろうが、男の子は精通が、女の子は生理が始まれば生物学的に子どもを設けることが出来るわけで、そこに「スキャンダラス!」「破廉恥!」などという封をしてしまう意識がそもそも“逃げ”なのではないか? 

コドモのコドモ
©2008『コドモのコドモ』製作委員会
コドモのコドモ
 本作の主人公は小学5年生の勝気な女の子・持田春菜だ。お相手は同級生の弱気な男の子・ヒロユキである。興味本位で行った“くっつけっこ”によって春菜が妊娠してしまうのだ。中絶も妊娠も、もちろん出産も、ピンと来ない幼き春菜だが、自分の意志で生む決心をする。周囲の大人たちは妊娠に気付かない。その様子があまりに不自然で、「いくらなんでも気付くだろう! いや、気付けよ!」と感じてしまうところが少し引っかかるが、同級生たちが一丸となって春菜と赤ちゃんを気遣うあたりは微笑ましいものがある。この辺りは一つの“ユートピア幻想”として捉えたが、重要なのはそこから観客の一人一人が何をどう考えるかということだ。見る前から目くじらを立てずに「まあ、ここは一つ見てみましょうよ」と言いたい。映画は優しく手招きしているのだ。見る前から攻撃的になるのは“大人げない”ですぜ。

コドモのコドモ  http://kodomonokodomo.jp/

2008年 日本 122分 配給:ビターズ・エンド
監督:萩生田宏治
出演:甘利はるな、麻生久美子、宮崎美子、谷村美月、草村礼子、斉藤暁、榎木兵衛、上野樹里、光石研、塩見三省ほか

【上映スケジュール】
9/27(土)〜  東京:渋谷シネアミューズ、新宿武蔵野館
10/25(土)〜  大阪:テアトル梅田
        京都:京都みなみ会館
        兵庫:シネカノン神戸
ほか、全国順次公開

2008年9月22日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
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