©2008年「石内尋常高等小学校 花は散れども」製作委員会 |
本作のデータ欄で「監督・脚本」ではなく「脚本・監督」と表記したのには訳がある。新藤兼人は常々「映画の原点はシナリオである」として、自身を「脚本家・映画監督」と名乗っているからだ。“一スジ、二ヌケ、三ドウサ”とは、“日本映画の父”と呼ばれるマキノ省三が映画の極意として遺した言葉だが、“スジ”とはシナリオ=脚本、“ヌケ”とは映像=撮影、“ドウサ”とは動作=演技を指す。この金言で既に映画の第一は脚本であると名言されているわけだが、新藤兼人もその極意を地で行く映画人だというわけだ。本作はそんな彼の248本目の脚本にして、48本目の監督となる。
それにしても、96歳である。日本映画界最高齢の現役映画監督として新藤兼人の名は広く知られているが、その功績は高齢という看板だけではなく、内実共に素晴らしいものがある。何せ、日本インディーズ映画監督の元祖だ。1949年に脚本家として在籍していた松竹を退社し、翌1950年、盟友であった映画監督の吉村公三郎、俳優の殿山泰司らと共に独立プロダクションの先駆けである近代映画協会を設立。1951年、39歳の時に『愛妻物語』で念願の監督デビューを果たして以降、一貫して自身の監督作品は脚本を兼任している。以来、半世紀以上に渡って近代映画協会を守り続けながら、現役を貫いている姿には心から敬慕の念を覚える。根っからの活動屋で、脚本作品だけでなく監督作品もコンスタントに発表を続けており、その衰えを知らない創作意欲にも頭が下がる思いがする。
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コミカルなまでに戯画化を狙った作りこみ演出が冴えに冴える序盤では、映画がまだ活動写真と呼ばれていた時代の空気を軽妙に盛り込み、大いにニンマリさせられてウキウキした。これが100歳を間近に控えた長老監督の作品かと、俄かに信じがたいほどで、その瑞々しさが感動を伴って素晴らしい。太平洋戦争を挟んだ中盤以降は、そこに陰鬱なトーンが加わるが、ユーモアを失わない作劇が、ただ単に重苦しさに流されることなく、重喜劇の側面を持った人間ドラマとして成立している。全編に渡って生の活力が漲ったパワフルな作品に仕上がった。それも優等生の模範解答のような上っ面の人間讃歌ではなく、生と性を切り離さずに描き、清濁併せ呑んだ作劇となっているのが良い。終盤で少しモタつく部分があり、少々クドくなってしまった嫌いはあるが、本作を包み込む前向きなエネルギーには心打たれた。
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新藤兼人悲願の企画である『ヒロシマ』実現のためにも、本作のヒットを祈って止まない。
石内尋常高等小学校 花は散れども http://www.shindo95.com/
2008年 日本 118分 配給:シネカノン
脚本・監督:新藤兼人
出演:柄本明、豊川悦司、六平直政、川上麻衣子、大杉漣、原田大二郎、渡辺督子、角替和枝、りりィ、根岸季衣、吉村実子、大竹しのぶ、ほか
【上映スケジュール】
9/27(土)〜 東京:シネカノン有楽町一丁目、新宿武蔵野館、立川シネマシティ
10/11(土)〜 大阪:テアトル梅田、布施ラインシネマ
兵庫:シネカノン神戸
10/25(土)〜 京都:京都シネマ
11月予定 大阪:第七藝術劇場
ほか、全国順次公開