銀幕ナビゲーション-喜多匡希

宮廷画家ゴヤは見た

【時代の波に翻弄される男女の愛憎
―――目撃者はゴヤ】 あとで読む

宮廷画家ゴヤは見た
©2006 Xuxa Producciones SL - All Rights Reserved

宮廷画家ゴヤは見た
©2006 Xuxa Producciones SL - All Rights Reserved
宮廷画家ゴヤは見た
『カッコーの巣の上で』(1975)、『アマデウス』(1984)で2度アカデミー賞を制覇した巨匠ミロス・フォアマンの最新作は、スペインが生んだ不正出の天才画家フランシスコ・デ・ゴヤを語り部として、18世紀末〜19世紀初頭という激動の時代に翻弄される人々を見つめた堂々たる歴史絵巻だ。大プロデューサーであるソウル・ゼインツが製作、その息子ポール・ゼインツが製作総指揮に名を連ね、フォアマンは構想50年に及ぶこの物語を編み上げた。執心の企画と言って良い。しかも、その意気込みが見事に結実した素晴らしい出来栄えである。

 風格ある大スケールのコスチューム史劇だが、エンターテインメント性を失うことなく、超一級の娯楽作に仕立てた手腕は『アマデウス』を思い出させ、その衰えを知らない卓越した演出に目を見張った。15年に及ぶ激動のスペイン史を、一人の語り部が目撃したある男女の非業な身の上を通して描き切っている。少々長くなるが、そのあらすじを御紹介しよう。

宮廷画家ゴヤは見た

宮廷画家ゴヤは見た
©2006 Xuxa Producciones SL - All Rights Reserved
【1792年のスペイン。国王カルロス4世の宮廷画家に任命され、名実共にスペイン最高の画家と呼ばれるようになったフランシスコ・デ・ゴヤは2枚の肖像画を描くことに没頭している。1枚は親友で裕福な商人トマスの娘・イネスの肖像画、もう1枚は、野心家の神父ロレンソの肖像画だ。ロレンソはゴヤのアトリエでイネスの肖像画を眼にし、心奪われる。

丁度この頃、ロレンソは形骸化していたカソリック教会の権威を復活させるべく、異端審問の強化を目論んでいた。ほどなく、イネスが審問所に連行されてしまう。居酒屋で豚肉を食べなかったところを目撃され、ユダヤ教徒だと疑われたのだ。トマスに頼まれたゴヤは、肖像画の代金&修道院への寄付を交換条件にイネスの釈放を訴え、ロレンソはこれを承諾して異端審問所を訪れる。ロレンソは、ここで初めて自身の心を奪ったあの肖像画の天使と対面を果たしたのだ。ここで2人は惹かれ合い、結ばれてしまう。しかし、この時、イネスは既に拷問によってユダヤ教徒であると虚偽の告白を行った後であった。

娘が釈放されないと知ったトマスは、ロレンソを誘い出し逆に拷問にかける。異端審問の不当性を証明するためだ。ロレンソはあっさりと責め苦に屈した。ところが、教会はイネスの釈放を認めず、更に恥さらし者のロレンソの追求を画策する。身の危険を感じたロレンソはフランスへと亡命する――。

15年後、フランス革命後に皇帝となったナポレオンはスペイン内紛にも介入し、軍隊を送り込んだ。異端審問は直ちに廃止され、イネスはようやく解放される。既に家族は亡くなり途方に暮れるイネスはゴヤを頼る。病で耳が聴こえなくなってしまっていたゴヤだが、突然の訪問者をイネスだと悟り、フランス政府の大臣としてスペインに舞い戻っていたロレンソと引き合わせる。そこでイネスは驚くべき真実を告げる。「おおっ、愛するロレンソ! 私たちの赤ちゃんはどこへ行ったの?」

ゴヤはこれまでの全てを見ていた。そして、彼はこの残酷な愛憎劇の終幕も見届けることになるのである……】

宮廷画家ゴヤは見た
©2006 Xuxa Producciones SL - All Rights Reserved
宮廷画家ゴヤは見た
 野心に燃える神父ロレンソに扮するは、『ノーカントリー』でアカデミー助演男優賞を受賞し、今最もノりにノッているハビエル・バルデム。悲運のヒロイン・イネスには着実に演技派女優へと成長しつつあるナタリー・ポートマン。彼女は、重要な鍵となるもう一人の登場人物を二役で演じている。誰を演じているかは、是非その目でお確かめいただきたい。歴史の目撃者となるゴヤには、ラース・フォン・トリアー監督作品の常連として知られる実力派のステラン・スカルスガルド。「有名スターではないが、役柄で人々の記憶に残る素晴らしい俳優!」というフォアマンの言葉通りの存在感は圧巻だ。絢爛豪華な宮廷だけでなく貧しい市民の生活も見据えたゴヤの眼差しが、時代を超えて我々の胸に迫る。お見事だ。

宮廷画家ゴヤは見た  http://www.goya-mita.com/

原題『GOYA'S GHOSTS』

2006年 アメリカ/スペイン 114分 配給:ゴー・シネマ
監督・脚本:ミロス・フォアマン
出演:ハビエル・バルデム、ナタリー・ポートマン、ステラン・スカルスガルド、ランディ・クエイド、ほか

【上映スケジュール】
10/ 4(土)〜  東京:有楽町スバル座、渋谷東急、新宿ミラノ、シネ・リーブル池袋、ほか
10/11(土)〜 大阪:シネ・リーブル梅田、敷島シネポップ、ほか
10/11(土)〜 京都:新京極シネラリーベ
10/11(土)〜 神戸:シネ・リーブル神戸、ほか
ほか、全国順次公開

2008年9月29日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
ご感想をどうぞ ▲comment top

  バックドロップ・クルディスタン | 石内尋常高等小学校 花は散れども > >>

▲このページの先頭へ


w r i t e r  p r o f i l e
turn back to home | 電藝って? | サイトマップ | ビビエス