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『十二人の怒れる男』(1957)以降、実に半世紀以上もアメリカ映画界の第一線で活躍を続けているシドニー・ルメット監督の最新作。日本での劇場公開作品としては、『グロリア』(1999)以来、久々の御目見えということになる。
しかし、ジョン・カサベテス監督&ジーナ・ローランズ主演の同名傑作をシャロン・ストーン主演でリメイクした前作は批評・興行共に奮わず、60〜70年代のルメット全盛期を知る者にとってはあまりに寂しい失敗作であった。
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【裕福な会計士の兄・アンディが、離婚後の養育費にさえ事欠いている弟・ハンクに大胆な儲け話を持ちかける。ニューヨーク郊外にある両親経営の宝石店を襲撃しようというのだ。店番は老母のみ。店は保険に入っているため、実質的な損害はゼロ。計画は完璧のはずだった。しかし、一発の銃声が運命を狂わせる……】
というのが、ごくごく簡単な本作のあらすじだ。
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ここで、古くからの映画ファンならば、ルメットが脂の乗り切っていた頃に発表した傑作『狼たちの午後』(1975)を連想することだろう。同年度アカデミー賞において、作品賞・監督賞を含む6部門にノミネートされたこの作品は、原題を『DOG DAY AFTERNOON』という。『DOGDAY』というのは“犬が舌を出して息をするほど暑い日”という意味であるそうだが、それでは日本の観客に伝わらないと思ったのかオリジナル邦題が冠されることとなった。この作品は、ニューヨーク郊外の銀行で実際に起きた三人の若者による強盗事件を描いた作品だった。この段階で、『その土曜日、7時58分』と『狼たちの午後』には
“強盗”
“安易な計画”
“誤算”
という3つの共通点が存在することが判る。そこで筆者は、本作を鑑賞した直後、自宅で『狼たちの午後』のビデオを鑑賞してみることにした。すると、驚いたことに、『狼たちの午後』における銀行襲撃の日時は“土曜日、2時57分(銀行の閉店直前)”であったのだ。と考えると、本作の邦題である『その土曜日、7時58分』は、ただ単に物語のポイントとなる日時を示しているだけでなく、『狼たちの午後』に対する実に心憎いオマージュでもあるのだ。
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加えて、本作は、ルメットの全盛期を彷彿とさせるだけではなく、年輪を重ねることによって生まれた円熟味までも感じさせる。そこが凄い。クエンティン・タランティーノばりに時間軸を錯綜させた、まるでジグソーパズルの如き語りの妙は、“老いてますます盛ん”という言葉がぴったりの若々しさだが、“その土曜日、7時58分”を転換点として、2人の兄弟の強盗計画から、やがて家族の関係を巡る一大メロドラマが立ち上ってくる辺りは、まさに“老練”という言葉こそ相応しい深みが感じられる。
ルメットの大復活を支える実力派俳優陣の見事な演技も見もの。とりわけ、マーロン・ブランドを髣髴とさせるフィリップ・シーモア・ホフマンの神がかり的な上手さと、久方振りのルメット作品出演でいぶし銀の存在感を放つアルバート・フィニーの渋味は必見!
この秋、もっともおすすめしたい重厚な逸品である。
その土曜日、7時58分 http://www.sonypictures.jp/homevideo/sonodoyoubi/
原題『BEFORE THE DEVIL KNOWS YOU'RE DEAD』
2007年 アメリカ 117分 R-18指定作品 配給:ソニー・ピクチャーズ
監督:シドニー・ルメット
出演:フィリップ・シーモア・ホフマン、
イーサン・ホーク、アルバート・フィニー、
マリサ・トメイ、ローズマリー・ハリス、アレクサ・パラディノ、
マケル・シャノン、エイミー・ライアン、ほか
【上映スケジュール】
10/11(土)〜 東京:恵比須ガーデンシネマ
11/1 (土)〜 大阪:梅田ガーデンシネマ
12/13(土)〜 京都:京都シネマ
11/8 (土)〜 兵庫:シネ・リーブル神戸
そのほか、全国順次公開