銀幕ナビゲーション-喜多匡希

ブーリン家の姉妹

【愛憎劇と権力争いに
翻弄される二人のヒロイン】 あとで読む

ブーリン家の姉妹
© 2008 Columbia Pictures Industries, Inc. and Universal City Studios Productions LLLP and GH Three LLC. All Rights Reserved

“堂々たる風格を備えたヨーロピアン・コスチューム史劇が久々にスクリーンを彩る”

ブーリン家の姉妹

 それだけで小躍りしたくなってしまうのは、筆者がこの種の作品に目がないからであるが(よく誤解されるが、筆者が最も好んで飛びつく洋画は中世史劇=コスチューム劇なのだ。ホラーやサスペンスも確かに好きだが、飛びぬけて好きなのが中世史劇や文芸作品である)、その贔屓目を差し引いても、本作は実に見応えのある立派なエンターテインメント作品に仕上がっているので、読者諸氏にも是非御覧いただきたい。

 タイトルにある“ブーリン家の姉妹”とは、16世紀イングランドの新興貴族トーマス・ブーリンの娘たちを指す。姉:アン・ブーリン、妹:メアリー・ブーリン。この姉妹が、本作の主人公だ(史実では、アンとメアリーのどちらが姉であるか定かではないのだが、本作ではアンが姉という設定)。勝気で上昇志向のアンと心優しいメアリーが、権謀術数渦巻く宮廷内の権力争いの中で、歴史の波に翻弄されていく姿が描かれる。

ブーリン家の姉妹
 アン・ブーリンと聞いて、ピンと来る映画ファンはなかなか年季が入っているのではなかろうか? 1960年代に、アン・ブーリンは銀幕で二度、大きく注目を浴びた。1度目はアカデミー賞6部門に輝いた名作『わが命つきるとも』(1966 アメリカ)で、イギリス出身の名女優ヴァネッサ・レッド・グレーブが演じた時、2度目は『1000日のアン』(1969 イギリス)で、カナダ出身で当時新進女優のジュヌヴィエーブ・ビジョルドが演じた時である。どちらの作品でも、アン・ブーリンは悲劇の運命に晒された女性として描かれており、メアリーの影は至極薄かった。しかし、本作はタイトルの通り、姉妹を中心とした物語となっており、メアリーの存在も相当に大きいものとして描かれている。

 アンを演じるのは、現在公開中の『宮廷画家ゴヤは見た』(2006)でも熱演を見せているナタリー・ポートマン。本作では、どこかデミ・ムーアを思わせるしたたかな美女を演じて新境地を開拓している。メアリーを演じるのは、目下、若手演技派のトップを独走しているスカーレット・ヨハンソン。コスチューム劇から現代劇、悪女に乙女までなんでもござれの上手さは本作でも健在で、ほとんどノーメイクで心優しいメアリー役にすっかり成り切っている。

ブーリン家の姉妹

 アン・ブーリンと言えば、イギリス女王エリザベス1世の生母として有名だが、その生涯は決して恵まれたものではなかった。父であるトーマス・ブーリン卿や叔父のノーフォーク公爵の出世争いのために、短い一生を散らせた女性というイメージが強い。時のイングランド国王ヘンリー8世の王妃となって跡継ぎを生めばブーリン家は安泰という画策の犠牲となったという同情的な見方が大きいからだ。しかし、本作では、アン個人の欲望や嫉妬もじっくりと描き出している。

 最初の王妃であるキャサリン・オブ・アラゴン(なんと『ミツバチのささやき』のアナ・トレント!!)を宮廷から追い出したまでは良かったものの、アンは男子を産むことができず、やがて、猜疑心から姉のメアリーすら疎んじるようになる。ここで見られる自業自得の愚かさが、日本の江戸時代にあった大奥を思わせる風で空恐ろしい。

 姉妹の確執劇として見るも良し、宮廷を舞台とした政治サスペンスとして見るも良し、歴史に秘められた悲劇として見るも良し、様々な角度から味わえる娯楽性に富んだ作劇が見事。衣装・美術・撮影も素晴らしい。

 日本では当たらないとされる西洋コスチューム劇だが、この面白さは太鼓判。まずは御覧を!

ブーリン家の姉妹  http://www.boleyn.jp/

原題:『THE OTHER BOLEYN GIRL』

・第21回東京国際映画祭特別招待作品

2008年 アメリカ/イギリス 115分 配給:ブロードメディア・スタジオ
監督:ジャスティン・チャドウィック
出演:ナタリー・ポートマン、スカーレット・ヨハンソン、エリック・バナ、デヴィッド・モリッシー、クリスティン・スコット・トーマス、マーク・ライランス、ジム・スタージェス、ほか

【上映スケジュール】
10/25(土)〜
東京:シャンテシネ、新宿バルト9、Bunkamuraル・シネマ、ほか
大阪:TOHOシネマズ梅田、TOHOシネマズなんば、ほか
京都:TOHOシネマズ二条、イオンシネマ久御山
兵庫:OSシネマズミント神戸、TOHOシネマズ伊丹、109シネマズHAT神戸
奈良:TOHOシネマズ橿原
和歌山:ジストシネマ和

2008年10月20日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
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