銀幕ナビゲーション-喜多匡希

ボーダータウン
報道されない殺人者

【ジェニファー・ロペスの瞳に圧倒!
渾身の社会派サスペンス】 あとで読む

ボーダータウン 報道されない殺人者
© 2006 BORDERTOWN PRODUCTIONS,LLC All Rights Reserved

『ボーダータウン 報道されない殺人者』というタイトルは、些かインパクトに欠ける。『ボーダータウン』では何のことか良くわからないから副題を付けたのであろうが、『報道されない殺人者』というのも、別段、心に残らない。「これじゃあまるで、90年代に乱発された日本劇場未公開ビデオスルー作品みたいじゃないの……」と、さして期待をせずに鑑賞したのだが、これが思いがけずきっちりまとまった社会派サスペンスの秀作で嬉しい誤算。勇気ある告発の1本として是非御紹介したいと感じた次第。

ボーダータウン 報道されない殺人者

【1990年代初頭。アメリカと国境を接するメキシコの街フアレスには、NAFTA(北米自由貿易協定)を背景に、“マキラドーラ”と呼ばれる外国資本の輸出保税加工工場が林立し始めた。その頃から、この地域で女性ばかりを狙った殺人事件が急増。1993〜2008年までに500件もの事件が確認されているが、実際は5,000件以上と推定されている。また、行方不明となっている女性は数千人にも及ぶとか。尚、被害者は“マキラドーラ”で働く10代前半〜20代前半の非熟練労働者が殆どである。不可解なことに、“マキラドーラ”付近で多発しているこれらの事件は、州や検察当局のメディア操作などによって捜査が妨害されている上、その捜査そのものが杜撰極まりなく、難航しているという。加えて、真実を報道しようとする心ある者は、身の危険に晒され、抹殺されている状況だという……】

センター・オブ・ジ・アース
 本作は、このような実態を知ったグレゴリー・ナヴァ監督が、「正義・報道・経済発展とは何か?」を追求しつつ、危険を顧みずにフアレスという街が抱える闇に対して真っ向から挑んだ魂の咆哮とも言える一作だ。彼は、本作の製作中、自宅の玄関前に鳩の死体を置かれるなどといった、何やら不吉な予告めいた脅迫にも晒されたという。そういった無言の圧力の恐怖たるや、我々の想像を絶するものがあるだろう。しかし、投げ出すことをせずに完成させたのである。何よりもまず、この勇気を一番に称えたい。映画の力を信じるがゆえに、彼は負けなかった。そして、地球の裏側で暮らす我々に、本作は届こうとしている。知られざる凶悪な事件が、全世界に向け発信されているのだ。本作は映画という形をとった真実の報道である。

 とは言え、本作はドキュメンタリー映画ではない。事実を基にした劇映画である。しかも、主演がジェニファー・ロペス。共演にアントニオ・バンデラス、マーティン・シーンというのだから、スター映画と言っても良い。事実、本作は娯楽作品としても一級品の面白さだ。「面白い」などと表現すると不謹慎かも知れないが、そこに意味がある。

 2003年、ブラジル・リオデジャネイロの貧民街を舞台としたバイオレンス映画『シティ・オブ・ゴッド』(2002)が日本公開され、単館大ヒットを記録したが、あの作品も“知られざる真実”を描いて滅法「面白い」劇映画だった。

ボーダータウン 報道されない殺人者

 かといって、どちらの作品も、事実をこれ見よがしに捻じ曲げてはいない。そこがエラい。だからこそ、力がある。そのことは、作品そのものを見ればよく分かるはずだ。

 出演陣の熱演が本作の面白さと告発の両極を支えている。特に、真実を報道することに粉骨砕身するジェニファー・ロペスの瞳の力強さに唸った。サスペンスの盛り上げも巧みで、ラストに漂う余韻も実に後を引く。娯楽と告発が両立した本作は、『ネットワーク』(1976)や『大統領の陰謀』(1976)に連なるべき、報道を巡る問題作と言えよう。

ボーダータウン 報道されない殺人者  http://www.bordertown.jp/

原題:『BORDERTOWN』

・第57回ベルリン国際映画祭コンペティション部門正式出品作品

2006年 アメリカ 112分 配給:ザナドゥー
監督・製作・脚本:グレゴリー・ナヴァ
出演:ジェニファー・ロペス、アントニオ・バンデラス、マヤ・ザパタ、マーティン・シーン、ソニア・ブラガ、ほか
特別出演:フアネス(本人役)

【上映スケジュール】
10/18(土)〜 東京:シャンテシネ
11/15(土)〜 大阪:敷島シネポップ
11/29(土)〜 京都:京都シネマ
11月下旬予定 大阪:第七藝術劇場
近日公開予定 兵庫:シネカノン神戸
そのほか、全国順次公開

2008年10月20日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
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