銀幕ナビゲーション-喜多匡希

ブロードウェイ♪ブロードウェイ
コーラスラインにかける夢

【最小限の素材で最大限の味を引き出した
出色のドキュメンタリー】 あとで読む

ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢
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 2006年、ブロードウェイ・ミュージカルの大ヒット作であり、1985年に映画化もされた『コーラスライン』(『A Chorus Line』)が再演されることとなった。本作は、その再演版『コーラスライン』のキャスト・オーディションの模様を収めたドキュメンタリー作品だ。

 ここで「なんだ、DVDによく入っている特典映像みたいなものじゃないか……」なんて決めてかかってしまうと大間違い。青春の悲喜こもごもがギュッと凝縮された見事な出来映えである。

 夢と希望に胸膨らませた若者たちが自身の未来を切り拓こうとオーディションに挑む様は清々しく美しい。しかし、そこは厳しいプロの世界。情熱・やる気といったものだけで渡り歩けるものではない。正に弱肉強食という言葉こそが相応しい、容赦のない手厳しさが彼らを待ち受ける。

ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢

 なにせ19の役に対して応募者総数3,000人という難関。8ヶ月に渡るオーディションの中で、多くの者が振るい落とされていく。そこに現実の厳しさを見た。そうだ、現実は厳しい。

 同種のドキュメンタリー映画では、パリ・オペラ座バレエの最高位“エトワール”を目指して切磋琢磨するダンサーたちの姿を捉えた秀作『エトワール』(2000)が即座に思い出されるが、本作もまた負けず劣らずの素晴らしさだ。

 本作の見逃せないポイントは、オーディション風景に焦点を絞っていることだ。御存知の方も多いと思うが、『コーラスライン』そのものがブロードウェイ・ミュージカルのオーディションを題材とした物語である。つまり、本作はただ単に、ある作品のオーディションを捉えた作品ではなく、“オーディションを巡る若者たちを描いた作品のためのオーディション”という一種の入れ子構造にあるというわけ。

センター・オブ・ジ・アース
 アプローチは至極オーソドックスなもので、オーディションの風景を淡々と見つめていくのみ。奇をてらった演出もなければ、特に目新しい部分もない。しかし、片時も目を離せないのだから驚いた。目の前にオーディションという素晴らしい青春のドラマが繰り広げられているからこそ、余計な手を加える必要がないのだ。カメラは淡々と、若者たちの青春をありのままに写し出していくのみ。ただそれだけで、なんとドラマティックであることか!! 

 ドキュメンタリー・ブームの昨今、数多くの作品に触れる機会を得る。その中で、多くの作品が実験的で奇抜な試みによって新味を追求しているケースが見られるが、そういった一種の飽和状態にある中で、本作の素朴さがキラリと光っている。その素朴さを、逆に新鮮に感じ取れてしまうほどだ。

 しかし、ただ撮っているだけではない。膨大な撮影素材を繋ぎ合わせて、一つの作品にまとめる技術が編集だが、本作はその編集が抜群に上手い。必要最小限の素材から、最大限の味を引き出して見せた手腕を心から讃えたい。

 ミュージカル・ファンのみならず、広くおすすめしたい1作。

ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢  http://www.broadway-movie.jp/

原題:『EVERY LITTLE STEP』
2008年 アメリカ 93分 配給:松竹+ショウゲート
監督・製作:ジェームズ・D・スターン&アダム・デル・デオ

【上映スケジュール】
10/25(土)〜 
東京:新宿ピカデリー、Bunkamuraル・シネマ
大阪:梅田ブルク7、なんばパークスシネマ
京都:MOVIX京都
兵庫:OSシネマズミント神戸
そのほか、全国一斉公開

2008年10月20日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
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