銀幕ナビゲーション-喜多匡希

ブタがいた教室

【“考えるきっかけ”を与えてくれる秀作】 あとで読む

ブタがいた教室
2008「ブタがいた教室」製作委員会

 1990年7月から1992年3月にかけて、大阪・豊能町立東能勢小学校で、ある授業が900日に渡って行われた。

【クラスでブタを飼って、最後は自分たちで食べよう】

 この授業を実施したのは、当時、新米教師だった黒田恭史だという。この授業の模様は、1993年7月13日にフジテレビ系情報番組『今夜は好奇心』で放送され、賛否両論を巻き起こしたという。同番組は、1993年度ギャラクシー賞奨励賞や1995年度動物愛護協会主催映画コンクール内閣総理大臣賞を受賞したとか。2003年には、その一部始終を黒田恭史自らが『豚のPちゃんと32人の小学生―命の授業900日―』(ミネルヴァ書房)としてまとめ、出版している。

 先に賛否両論と書いたが、視聴者からの反応は否定派の方が多かったようだ。これは“食育”や“いのちの授業”が提唱・実践されるより以前の出来事であるから、それも止む無しといったところか。当然、この授業の模様を映画化した本作にも賛否両論の渦が生まれることであろう。しかし、それで良いと思っている。肝要なのは、「食べる・食べない」という選択の結果に正解・不正解という枠組みを設けてしまうことではなく、ここで差し出される問題に対して“向き合う”という姿勢であろう。

 さて、本作。映画化に合わせてかなり変更点がある。まず、舞台が大阪ではなく東京に移され、900日に及んだ授業が1年という設定に。生徒数は実際の32人から26人となっている。これらは全て映画化に際しての合理的な脚色であって、何ら問題はない。むしろ、すっきりとして判りやすくなっていると感じた。自然な改変と言える。

ブタがいた教室© 2008「ブタがいた教室」製作委員会

 自然と言えば、本作成功の最大の鍵として、子どもたちの素直な反応を引き出したドキュメンタリー・タッチの演出が挙げられよう。プレスシートによれば、26人の子どもたちには、結末部分の記されていない脚本が配られたという。対して、大人の俳優やスタッフには、結末部分までを記した完全台本が配られたとか。この独特の演出が、演技を超えた子どもたちのありのままの姿を引き出すことに直結しており、素晴らしい。Pちゃんを巡る「食べる・食べない」の議論は、子どもたちによる議論の末に多数決形式で決められていくが、その中で放たれる子どもたちの言葉がセリフではなく、本人が悩み考えた末の真実のものだからこそ、ハッとさせられることが多いのだ。26人の子どもたちは、役者としてではなく、まさに妻夫木聡扮する新米教師の生徒として画面内に存在し、“いのち”に対して全力で向き合っている。この姿を、多くの子どもたちに観て、そして考えて欲しいと願うが、同時に多くの大人たちにも見て欲しい、そして考えて欲しいと願う。

 この作品にある痛みを、子どもたちだけに押し付けてはいけない。大人たちが見過ごしてはいけない。

“考えるきっかけ”を与えてくれる秀作。本作に込められた想いを受け取りつつ、自らの糧としたい。それだけの力が本作にはあるし、それだけの価値が本作にはある。見逃して欲しくない。

ブタがいた教室  http://www.butaita.jp/

2008年 日本 109分 配給:日活
監督:前田哲
原作:黒田恭史(『豚のPちゃんと32人の小学生−命の授業900日』)
出演:妻夫木聡、26人の子どもたち、大杉漣、田畑智子、池田成志、原田美枝子、ほか

・第21回東京国際映画祭コンペティション部門 観客賞&観客賞&TOYOTA Earth Grand Prix 審査員特別賞W受賞!

【上映スケジュール】
11/1(土)〜 
東京:シネ・リーブル池袋、新宿武蔵野館、ほか
大阪:シネ・リーブル梅田、なんばパークスシネマ、MOVIX堺、MOVIX八尾、ほか
京都:京都シネマ、ワーナー・マイカル・シネマズ高の原
兵庫:シネ・リーブル神戸
奈良:MOVIX橿原
そのほか、全国順次公開

2008年10月27日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
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