銀幕ナビゲーション-喜多匡希

イエスタデイズ

【心のこもったヒューマン・ファンタジーの佳作】 あとで読む

イエスタデイズ
© 2008 YESTERDAYS FILM PARTNERS

 本多孝好によるベストセラー『FINE DAYS』に収録されている同名短編小説を映画化したヒューマン・ファンタジー。

イエスタデイズ © 2008 YESTERDAYS FILM PARTNERS

【3年前に家出した青年・聡史の下に電報が届いた。渋々、故郷の病院を訪れた聡史は、そこで父・昭彦の余命がわずかであることを知らされる。しかし、レストラン・チェーン店経営者である父の冷徹さに対ずる反発心は根深い。そんな聡史に昭彦はある人を探して欲しいと頼み込む。「30年前につきあっていた女性を探してほしい。子供がいるんだ、その人と俺との……」 突然知らされた意外な事実に戸惑う聡史だが、やがてその頼みを受け入れ“真山澪”という女性を捜し求めることになる。画家志望だった昭彦に手渡されたのは一冊のスケッチブック。その中には、当時の思い出がギュッと詰まっていた。そのスケッチブックを片手に、昔、昭彦と澪が同棲していたというアパートの前に辿り着いた聡史だが、そこで彼の目の前に現れたのは、32年前の昭彦と澪だった。以降、聡史は過去と現代を行き来することになり、その中で若き日の父と、父の恋人であった澪と友情を育んでいく。その中で聡史は、知られざる父の過去を目の当たりにしていくのだった……】
というストーリー。

 冒頭、主人公を乗せたバスが海岸線を走っていく。空と海とが互いに溶け込むかのような水平線が印象的なこのファースト・シーンは、過去(イエスタデイズ=昨日たち)と現在が渾然一体となって繰り広げられる一種のタイム・スリップSFである本作の在り方を如実に示しているのだが、同時に、叙情溢れる自然の光景そのものが、スーッと心に染みてきて優しい。

イエスタデイズ © 2008 YESTERDAYS FILM PARTNERS

 鑑賞中、真っ先に連想されたのは『時をかける少女』だ。まるで『時をかける青年』と安直に表現したくなるほど、即座に脳内に浮かび上がってきたものである。しかし、本作では、そのタイム・スリップという時間旅行の謎が解き明かされることはない。そして、それが本作の目指した地平でもあろう。SF的要素はあれど、それはあくまで物語の進行に必要なプロセスであり、そのメカニズムは全く重要でない。本作で重要なのは、“なぜだかよくわからないけれど時折タイム・スリップしてしまうという状況”に戸惑いながらも、やがてその不思議な現象を受け入れるようになる中で織り成される、時空を越えた友情と家族愛のドラマそのものであるからだ。「なぜタイム・スリップするのか?」という科学的疑問よりも、そのファンタジックな物語を通して成長していく主人公の姿に、現実的な希望を持たせた作劇が感動を呼ぶ。

イエスタデイズ © 2008 YESTERDAYS FILM PARTNERS

 聡史を演じる塚本高史と昭彦を演じる國村隼が共に好演。反目から和解へ至る、些か現実味に欠ける父子の姿に説得力を持たせたのは2人の演技によるところが大きい。若き日の昭彦と澪を演じる和田聰宏と原田夏希も真摯な演技で着実にドラマを積み上げていく。脇を支えるカンニング竹山と風吹ジュンの自然体な佇まいも良い。

 心のこもった作りに素直に涙がこぼれた。本作のような佳作が現代の日本映画界を支えているのだ。老若男女問わずおすすめできる温かさと優しさに満ちた感動作としておすすめしたい。

イエスタデイズ  http://www.yesterdays-movie.com/

2008年 日本 139分 配給:角川映画
監督・編集・撮影台本:大林宣彦
原作:重松清(『イエスタデイズ』)
出演:南原清隆、永作博美、筧利夫、今井雅之、勝野雅奈恵、原田夏希、柴田理恵、風間杜夫、 宝生舞、寺島咲、厚木拓郎、森田直幸、斉藤健一、窪塚俊介、伊勢未知花、大谷耀司、小杉彩人、高橋かおり、並樹史朗、大久保運、三浦景虎、油井昌由樹、小林かおり、吉行由実、笹公人、柴山智加、鈴木聖奈、村田雄浩、山田辰夫、左時枝、小日向文世、根岸季衣、入江若葉、峰岸徹、ほか

【上映スケジュール】
11/1(土)〜 
東京:角川シネマ新宿、シネカノン有楽町2丁目、アミューズCQN
大阪:梅田ブルク7
京都:MOVIX京都
兵庫:三宮シネフェニックス
そのほか、全国順次公開

2008年10月27日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
ご感想をどうぞ ▲comment top

  < Happyダーツ | その日の前に > >>

▲このページの先頭へ


w r i t e r  p r o f i l e

turn back to home | 電藝って? | サイトマップ | ビビエス