銀幕ナビゲーション-喜多匡希

ワンダーラスト

【 映画作家マドンナ、堂々誕生!】 あとで読む

ワンダーラスト

“ポップス界の女王”と呼ばれるマドンナの監督デビュー作は、一見に値するなかなかの秀作に仕上がっている。マンナのファンや洋楽ファンのみならず、映画ファンにも是非おすすめしたい。

 しかし、正直なところ、その出来映えにはさして期待していなかった。そのため、嬉しく予想を裏切られた格好だ。本作に期待していなかったことには理由がある。

 ミュージック・シーンでは紛れもない大スターであるマドンナだが、映画界においては、長年嘲笑の対象とされてきた。最低映画賞と呼ばれるエンタープライズゴールデン・ラズベリー賞では、これまでに9度のワースト女優賞に輝くというぶっちぎりの不名誉記録を樹立。90年代にはセックス・シンボルとして話題を振りまいたが、年輪を重ねると共にその路線にも翳りが見えてきた。事実、近年では、女優としてヒット作に恵まれず、スランプ気味であったと言って良い。

 映画界におけるマドンナの不幸の最大の要因は、シャロン・ストーンの存在であった。共に1958年生まれの同い年で、下積み時代に苦労を重ねた後、マドンナは歌手として、シャロン・ストーンは女優として人気を博すようになる。やがて、シャロン・ストーンが『氷の微笑』(1992)でセックス・シンボルとして大ブレイクすれば、それに続けとばかりにマドンナは『BODY/ボディ』(1993)。また、肉体派女優の限界を感じたシャロン・ストーンが演技派女優の道を志して『カジノ』(1995)に出演すれば、これまたマドンナは『エビータ』(1997)に出演。このように、マドンナは常にシャロン・ストーンの後塵を配し、常に二番手であったというイメージがあるのだ。そして、時は流れ2000年代。シャロン・ストーンが明らかに低迷。マドンナもそれに続き、映画界から消え去っていくかのように思われた。今回の映画監督デビューにも、唐突な印象が否めず、どこか苦し紛れのパフォーマンスという印象が強かったものだ。

 しかし、違った。

 ここには、紛れも無い映画作家としての才能が迸っている。

 本作は、イギリス・ロンドンの下町を舞台として3人の若者の姿を描いた青春映画。ウクライナ移民でミュージシャンとしての成功を夢見つつ、SMの調教師として生計を立てているAKと、バレリーナ志望だがなかなか芽が出ず、生活のためにストリップ・ダンサーとなるホリー、アフリカに渡って恵まれない子どもたちを助けよることを夢としながら、勤め先の薬局で時々薬を盗み、旅立つ日に備えているジュリエットという、3人の主人公は、それぞれが下積み時代のマドンナの分身だ。

 彼ら3人の姿を通して、本作の原題にもなっている『FILTH AND WISDOM』(堕落と知恵)というテーマが浮かび上がってくる。劇中でも語られるのだが、堕落と知恵はコインの裏表のように、表裏一体の存在であり、そのコインとはズバリ“人間”を表す。AK&ホリー&ジュリエットという3人の若者の生活は、決してスマートではなく、それどころか、時に世間が眉をしかめそうな堕落を示してもいる。しかし、ここで、マドンナは自己の体験を通して、「それこそが青春! それこそが人間!!」という、経験に基づいた達観を提示しているのだ。その鋭い視点に唸らされること請け合いである。

 本作が輝いているのは、その着眼点に限ってのものではない。ここには、確かな演出が存在しており、映画としての完成度も相当な高みに達している。マドンナが影響を受けたという、ゴダールやヴィスコンティへのオマージュが全編に散りばめられているが、それがただの真似事ではなく、板についているのも素晴らしい。

 特に、クライマックスのライブ・シーンは圧巻! 清濁併せ呑んだ人間という存在をジリジリと描いた後、ここで一気に本作は弾けて見せる。ここで光り輝くのは、人生の素晴らしさに他ならないのだ。

 マドンナは、本作で映画作家としての地位を確立してみせた。必見である。


『ワンダーラスト』公開記念イベント情報@大阪』
ONZIEME MEETS MADONNA’s 『WONDER LUST』キックオフパーティー

話題沸騰!! マドンナの初監督作品『ワンダーラスト』の公開に先駆けて、前夜ミュージックPARTYが実施!映画をインスピレーションさせるダンス/ROCK MUSICの中、きらびやかなポールダンサーも出演!!

・当日はshu uemuraから来場者にプレゼントあり(先着500名様 女性限定)
・その他、劇場鑑賞券や映画グッズが当たる抽選会も開催・当日のイベントフライヤーを『ワンダーラスト』上映劇場に持参/提示すれば、映画鑑賞料金を前売り価格に割引!

日時:1月23日(金) OPEN 21:00〜LATE場所:ONZIEME LIVE&BAR 11 大阪市中央区西心斎橋1-4-5 御堂筋ビル11F(http://www.onzi-eme.com/)料金:\2,500(with 1ドリンク)

DJ:久保田コージ、BAN‐CHAN、KO‐TARO and moreVJ:GORAKUVISUARIZE:Eiri KAWAKAMIPole Dancer:烏來Kyoto

 

ワンダーラスト http://wonder-lust.jp/

2008年 イギリス 84分 PG-12指定作品
配給:ヘキサゴン・ピクチャーズ

監督・脚本・製作総指揮:マドンナ
主題歌:GOGOL BORDELLO 『WONDERLUST KING』
出演:ユージン・ハッツ(GOGOL BORDELLO)、ホリー・ウエストン、ヴィッキー・マルクア、リチャード・E・グラント ほか

【上映スケジュール】
上映中     東京:ヒューマントラストシネマ渋谷
1/31(土)〜 大阪:シネマート心斎橋
1/31(土)〜 京都:京都シネマ
2/7 (土)〜 兵庫:シネリーブル神戸

2009年1月19日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
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