銀幕ナビゲーション-喜多匡希

ミルク

【 “人の命を救える映画” 】 あとで読む

ミルク

 ハーヴィー・ミルクが暗殺によって帰らぬ人となったのは1978年の出来事であり、『ミルク』の製作&全米公開は2008年の出来事である。そのため、没後30年を記念して作られたメモリアル映画と捉えられてしまうのも無理はない。しかし、ハーヴィー・ミルクの信念と、『ミルク』が描き出すテーマは、共に“記念”などという言葉を以って、過去に封じ込められるものでは決して無い。

ミルク
©2008 Focus Features LLC and Axon Film Finance I, LLC. All Rights Reserved.

 2008年は、アメリカ合衆国史上初となる黒人大統領バラク・オバマが誕生した年であり、この歴史的快挙には、マイノリティ差別と戦ったマーティン・ルーサー・キング・ジュニアやハーヴィー・ミルクらの存在が大きく影響しているのだ。両者共に志半ばにして凶弾に倒れたが、その心は多くの人々によって受け継がれ、輝きを増していった。その心に触れて救われた者は計り知れないほど多い。しかし、差別がこの世から無くなったわけではなく、現にカリフォルニアでは、一旦認可された同性婚制度が撤廃の憂き目に遭い、激しい議論の的となっている。そこで、ミルクが遺した足跡を伝記映画の形で振り返り、1970年代と現在が地続きにあることを改めて示すことで、観客の脳裏に現状が立ち表れる。ガス・ヴァン・サントは『ミルク』を通じて過去と現在をリンクさせているのである。

 しかし、日本におけるハーヴィー・ミルクの知名度は思いのほか低く、本作で初めてその存在を知るという方も少なくないはずだ。そういった中で、“ゲイの政治家・活動家の映画”というイメージが鑑賞意欲に歯止めをかけてしまうことも考えられる。「私には関係がない。だから関心も無い」という意識が、ミルクが立ち向かった差別の問題を対岸の火事として捉えてしまうのではないか? アメリカの話・過去の話として、遠ざけてしまうのではないか? 特に政治離れが懸念されている若年層において、そういった傾向が顕著になるのでは、という危惧がある。だとすれば、とても残念な話である。

ミルク
©2008 Focus Features LLC and Axon Film Finance I, LLC. All Rights Reserved.

『ミルク』が描き出すテーマは普遍の輝きに満ちている。未来を担う若年層にこそ、是非御覧頂きたい素晴らしい作品だ。出来栄えは申し分ないものであることを保障しよう。

 アカデミー賞脚本賞を受賞したダスティン・ランス・ブラックの言葉を借りれば、「ミルク」は“人の命を救える映画”だ。そこには、国籍・言語・文化といった壁を越える感動がある。意義ある秀作だ。

ミルク  http://milk-movie.jp/

・2009年 第81回アカデミー賞 主演男優賞(ショーン・ペン)&脚本賞(ダスティン・ランス・ブラック)2部門受賞!
・2009年 第81回アカデミー賞 8部門ノミネート 
【作品賞、監督賞、主演男優賞、助演男優賞(ジョシュ・ブローリン)、脚本賞、編集賞、衣装デザイン賞、作曲賞】
・他、全世界41映画賞受賞

原題:『MILK』
2008年 アメリカ 128分 PG-12指定作品 配給:ピックス
監督:ガス・ヴァン・サント
製作総指揮・脚本:ダスティン・ランス・ブラック
音楽:ダニー・エルフマン
出演:ショーン・ペン、エミール・ハーシュ、ジョシュ・ブローリン、ディエゴ・ルナ、ジェームズ・フランコ ほか

【上映スケジュール】
4/18(土)〜 東京:シネマライズ、シネカノン有楽町2丁目、新宿バルト9 ほか 
大阪:梅田ブルク7、シネマート心斎橋 ほか
京都:京都シネマ、ワーナー・マイカルシネマズ高の原
4/25(土)〜 兵庫:三宮シネフェニックス、MOVIX六甲
そのほか、全国順次公開

2009年4月20日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク

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