世界中の産業発展を追いかけ、採掘場や工場、廃棄物処理場などの風景を撮り続ける世界的写真家:エドワード・バーティンスキー。彼は、そのファインダーを中国に向け、余りにも巨大なこの国の産業の発展・変容を風景写真として記録する旅に出た。その記録は写真集『CHINA』として結実し、世界中で絶賛の渦を巻き起こし、写真家としての名声を更に高めた。
COPYRIGHT EDWARD BURTYNSKY |
本作は、『CHINA』撮影の旅に付き添った記録であるのだが、それだけに留まらない。本作は、偉大な1人の写真家に密着した創作過程を捉えると同時に、中国という途轍もなく広大な国で起きている産業革命の姿を収めることに成功している。そればかりか、本作は、写真集『CHINA』に、映画という形で新たな息吹を吹き込み、1つの解釈をも示しているのだ。
ジャ・ジャンクー監督の『長江哀歌 <エレジー> 』(2006年 2006年度ヴェネチア国際映画祭金獅子賞&2007年度キネマ旬報外国語映画ベストワン)で広く知られた世界最大のダム=三峡ダムの工事現場や、驚くほどの速さで都市化が進む上海、汚染によって真っ赤に染まった川を捉えたバーティンスキーの写真は、あまりにも衝撃的で恐ろしく、しかしそれでいてアートとしての美しさに満ちている。彼が切り取った風景には、瞬間芸術たる <写真> の凄みが溢れているが、本作は、その凄みを些かも損なうことなく、音響の合成やロード・ドキュメンタリーとしての紀行性を加味することによって、時間芸術たる <映画> の特性を与え、また新たな作品としてそびえ立っているのだ。
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冒頭、巨大な工場における作業風景が8分間の長回しによって淡々と映し出される。果てがないのではないかと不安になってしまうほど延々と続く横移動撮影で、早くも圧倒されてしまった。本作で示されるのは、現代の中国で進んでいる変化のごくごく一部にしか過ぎない。となると、その全体像の巨大さはいかばかりであるのか? いくら考えてみても、想像の及ばない物凄さである。
しかし、これは中国だけで起きている現象ではない。本作の製作国であるカナダでも見られる。もちろん、アメリカやイギリス、フランス、ドイツ、イタリアなど、先進国と呼ばれる国々が一様に辿ってきた変化の過程である。日本も例外ではない。中国という国が膨大な規模を誇っているからこそ、このような衝撃が特別に顕著なものとして錯覚してしまうに過ぎないのだ。
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本作を前にしては、ただただ息を呑むしかない。鑑賞後、しばらくは何も言えなくなってしまう。考えられなくなってしまう。そして、しばらく経ち、落ち着いてからようやく人類の存在に思いを巡らせることになる。その、思考が停止する感覚は、本作を実際に鑑賞しないことには味わうことができない。幾らこうして書き連ねてみたところで、到底表現の追いつくところではないのだ。
エコ問題に関心のある方も、そうでない方も、是非!!
いま、ここにある風景 http://imakoko.cinemacafe.net/
原題『EDWARD BURTYNSKY: MANUFACTURED
LAN DSCAPES』
2006年 カナダ 87分 配給:カフェグル
ーヴ=ムヴィオラ
監督:ジェニファー・バイチウォル
出演:エドワード・バーティンスキー
【上映スケジュール】
7/12(土)〜 東京:東京都写真美術館ホール、シアター・イメージフォーラム
7/26(土)〜 大阪:テアトル梅田
8/2 (土)〜 大阪:十三第七藝術劇場
近日公開予定 京都:京都シネマ、
兵庫:神戸アートビレッジセンター