銀幕ナビゲーション-喜多匡希

ジャージの二人

【ゆるい雰囲気に溢れる
おかしさと優しさ、そして温かさ】 あとで読む

ジャージの二人
© 2008『ジャージの二人』製作委員会

 とある夏。一組の父と息子が別荘にやって来る。

 その父を演じるのが、今年で結成30年を迎えるロック・バンド:シーナ&ロケッツのギタリストである鮎川誠。息子を演じるのが『アフタースクール』『クライマーズ・ハイ』などで目下大注目の堺雅人。このキャスティングの妙!! もう、そのほか、全国順次公開予定これだけで見たくなってしまう。見逃してはなるまいという気にさせてしまう。

 そして、この2人が、タイトルそのままに、ほぼ全編をジャージ姿で通すのだ。機能性に溢れ、それでいてちょっとダサいあのジャージである。ただそれだけの話なのだが、これが実に味わい豊か。噛めば噛むほど味の出てくるスルメのような作品に仕上がった。

ジャージの二人
© 2008『ジャージの二人』製作委員会
ジャージの二人

 この主人公2人の関係が面白い。父が息子に対して「キミねぇ」と声を掛ける。ここに漂うちょっとした可笑しさと、そこから窺い知れる関係性。そこをいちいち説明しきらないところが、本作全体の <味> になっている。

 その <味> とは、90年代以降の日本映画界で一つのブームを作り出している <ゆるさ> というヤツだ。どこか全体がダラリンとした感じ。普段、時間に追われながら生きている現代の日本人にとって、このダラリンはとても魅力的。その間延び感がとても心地良いものとして感じられるのだ。しかし、このダラリンとした空気感を、娯楽である映画に仕立て上げるのはなかなか難しい。ダラリンとしていながらも観客を楽しませなくてはならないのだ。ただダラダラしていれば良いというわけではないのである。その点、本作はそのダラリンの心地良さの中で、そこかしこに登場人物の感情の起伏がフックとして散りばめられていて、退屈することがない。この辺り、『アヒルと鴨のコインロッカー』や『チーム・バチスタの栄光』でにわかに注目を集める中村義洋監督の上手さだろう。

ジャージの二人
© 2008『ジャージの二人』製作委員会

 舞台となる北軽井沢の風景や、ならではの小道具が素晴らしい。青い大空、白い雲、溢れる緑。その色彩のコントラストが心に優しく染み渡ってくる。ノンビリした気持ちにさせてくれる。五右衛門風呂での入浴や、父子揃ってのマキ割り、広がるレタス畑(撮影はキャベツ畑)、トイレに鎮座ましますカマドウマ(愛称『便所コオロギ』)、真っ赤に熟したトマト、危険な香りを放つイノシシ話…… その全てが微笑ましい。

 携帯電話の電波が入らないというだけで、そこはもう我々にとっては聖地だ。不便にも感じるが、同時に憧れてもしまう。ああ、逃げたい。たまには、日々の喧騒から離れてそういうところに逃げてしまいたい。

 そう。主人公の父子は、実生活からの逃避を求めて別荘にやって来るのだ。大楠道代演じる風変わりなお隣さんがどこか浮世離れしているのも、逃避先である北軽井沢では微笑ましい。そんな空間の中で、この父子は、自身を見つめ、そしてまた元の生活に戻っていく。言わば、本作は現実と地続きのファンタジー。このひとときが愛らしくてたまらない。93分の避暑をあなたもいかが? ひとときの避暑、一服の清涼剤として本作をおすすめする次第。

ジャージの二人 
http://ja-zi2.jp/

2008年 日本 93分 配給:ザナドゥー 
監督・脚本:中村義洋
出演:堺雅人、鮎川誠、水野美紀、田中あさみ、ダンカン、大楠道代、ほか 

【上映スケジュール】
7/19(土)〜 
東京:恵比寿ガーデンシネマ、角川シネマ新宿、銀座テアトルシネマ、ほか

8月中旬予定
大阪:梅田ガーデンシネマ、京都:京都シネマ、兵庫:シネ・リーブル神戸

2008年7月14日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
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