© 3H PRODUCTIONS- MARGO FILMS- LES FILMS DU
LENDEMAIN-ARTE France Cinema
故アルベール・ラモリス監督が残した珠玉の短編映画詩『赤い風船』。この愛すべき大傑作に魅せられた台湾のホウ・シャオシェン監督が、フランス・オルセー美術館の開館20周年事業として発足した映画製作プロジェクトの第一弾作品として、パリを舞台に撮り上げた作品である。本作は『赤い風船』のリメイクではない。オマージュを捧げるという形で、新たに作り出された作品であるのでお間違えなきよう。
2005年のカンヌ国際映画祭では、ちょっとしたアルベール・ラモリス旋風が吹き荒れた。半世紀以上も前に発表された『白い馬』と『赤い風船』の2作品のデジタル・リマスター版が監督週間に、本作が「ある視点」部門に、それぞれ正式出品されたのだ。往年の名作と、そこから生まれた最新作が、時代を超えて一同に会したというわけである。
本作は、夫と別居中の人形劇師スザンヌ。7歳になるスザンヌの息子シモン。シモンの世話をすることになる中国人留学生のソン・ファンの3人を軸にした等身大の生活スケッチだ。
パリの古いアパルトマンに暮らすスザンヌ(ジュリエット・ビノシュ、好演!!)は新作の発表準備で多忙を極めているが、その上、別居中の夫や、部屋を貸している友人のマルク、父親違いの姉ルイーズとの関係が上手くいかず、精神的にも余裕のない日々が続いている。そんなスザンヌにそっと寄り添うシモンと、静かに見守るソン。時に感情を爆発させるスザンヌだが、かけがえのないシモンとソンの存在が彼女を無言でいたわる。その様子を窓の外から見つめている赤い風船。
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『赤い風船』では、主人公の少年と赤い風船が心を通わせ、終始、直接触れ合っていたが、本作の赤い風船は、ただただ優しくその人間模様を見つめる存在として登場する。冒頭、バスティーユ駅前で赤い風船を見つけたシモンが、手が届かずに諦めるのだが、その風船がフワリフワリとシモンを追いかけてきたのだ。その、気まぐれとも思える自由気ままな風船の観察者たる存在性が、いかにもパリっ子然という感じで微笑ましく、同時に、どこか母性を感じさせるような慈愛をも感じさせて温かい。一種ファンタジー的な存在である赤い風船が見つめるのは、ありふれた日常に観られる感情の機微が紡ぐドラマ。このリアリズム溢れる人間描写こそ、ホウ・シャオシェン監督の真骨頂だ。
マルクの部屋から引き上げてきたピアノが重要な小道具として登場する。音の狂ったそのピアノを、盲目の調律師が音を合わせていく。この様が、スザンヌの心を表していて、その演出の上手さに驚いた。不協和音を奏でていたスザンヌの心が、シモンやソンの無言のいたわりによって、少しずつ平静を取り戻していくさまが、このピアノの調律を通して見事に描かれているのである。
その模様を見届けた風船が、「シモン君はもう大丈夫」と安心したように、パリの大空をフワリフワリと飛んでいく。
ラモリスが描いた自由とシャオシェンの描いた自由。どちらも素晴らしい!
ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン
http://ballon.cinemacafe.net/(『白い馬』『赤い風船』『ホウ・シャオシェンのレッド・バルーン』3作品共通HP)
原題『LE VOYAGE DU BALLON ROUGE』
2007年 フランス 113分 配給:配給:カフェグルーヴ=クレストインターナショナル
監督:ホウ・シャオシェン
出演:ジュリエット・ビノシュ、シモン・イテアニュ、イポリット・ジラルド、ソン・ファン、ルイーズ・マルゴランアンナ・シガレヴィッチ、ほか
☆2005年カンヌ国際映画祭「ある視点」部門正式参加作品
【上映スケジュール】
7/26(土)〜 東京:シネスイッチ銀座
8/2(土)〜 愛知:名演小劇場
8月上映予定 大阪:第七藝術劇場
その他、全国順次公開予定