2008年は日本映画大豊作の年として記憶されることになろう。『実録・連合赤軍 あさま山荘への道程』『ぐるりのこと。』『休暇』といった傑作のほか、『丘を越えて』『山桜』『アフタースクール』『純喫茶磯辺』『クライマーズ・ハイ』といった秀作・快作が相次いで公開された。これからも『闇の子供たち』『ひゃくはち』『蛇にピアス』(いずれも近日当コラムで紹介)など、自信を持っておすすめできる作品が続々と公開される。今回御紹介する『きみの友だち』も、今年の日本映画の絶好調を示す素晴らしさだ。この作品、地味で目立たない。そのため御存知ないという方も多いだろう。しかし、是非御覧頂きたい。見逃してほしくない。作り手の真心に溢れた大収穫の一本である。
原作は『あおげば尊し』『疾走』などが映画化されている重松清の同名小説。
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監督は廣木隆一。1980年代にピンク映画界で監督デビューし、1990年代突入前後に一般映画界にも進出した彼は、秀作『800 TWO LAP RUNNERS』(1994)で俄かに注目を集めたものの、以降はコレといった作品を発表することなく、コンスタントに作品を発表するものの、知る人ぞ知る存在という印象であった。確かな才能を感じさせるだけに、その雌伏の期間にやきもきしたりもしたものだが、2000年代に入って、彼は堰を切ったように快進撃を開始した。『ヴァイブレータ』(2003)を皮切りに、『やわらかい生活』(2005)、『M』(2006)といった秀作を始めとして、短編・中編・長編を多く発表。TVドラマでも『恋する日曜日』『ケータイ刑事』の2シリーズで好評を博し、円熟期に入ったという印象を強くしたものだ。今や、新作が最も楽しみな監督の1人である。
そのため、本作にも一定の期待を抱いて鑑賞したのだが、これが予想を軽く上回る素晴らしい作品。本作の素晴らしさを示すエピソードがあるので御紹介しよう。関係者試写直後、原作者の重松清が、廣木隆一を「ありがとう!」と言いながら強く抱きしめたという。重松清だけではなく、本作を鑑賞した者なら、誰しもが心の中でこの作品をギュッと抱きしめたくなることだろう。
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廣木隆一は、「映画を撮る時、 <今という時代> からズレたくない」と常に意識しているという。その思いが、彼の作品にいつも感じる現代性として表れているのだ。本作もその例に漏れず、 <友だち> という人間同士の関係性を、現代という時代を見つめながら描いている。恵美と由香という女の子同士の友情を中心に、複数の人間模様が映し出されていく。そこで描かれるのは <痛みと喪失、再生と希望> 。誰もが経験したことのある感情の移り変わりが、見事に表現されているからこそ、これだけの共感と味わい深さが生まれたのだ。
山梨オールロケによる撮影と緊張感溢れる長回しが素晴らしい効果を上げている。心を優しく包み込んでくるこの作品を、心から愛して止まない。ワンカット・ワンカットが絵葉書のような瑞々しい青春群像劇がここに誕生した。本作そのものが <きみの友だち> として、貴方に届くことを祈りつつ、絶賛と共におすすめする次第。
きみの友だち http://www.kimi-tomo.com/
2008年 日本 125分 配給:ビターズ・エンド
監督:廣木隆一
出演:石橋杏奈、北浦愛、吉高由里子、福士誠治、森田直幸、柄本時生、華恵、中村麻美、大森南朋、柄本明、田口トモロヲ、宮崎美子、ほか
【上映スケジュール】
7/26(土)〜 東京:新宿武蔵野館、渋谷シネ・アミューズ
8/上旬予定 大阪:シネ・リーブル梅田 兵庫:シネ・リーブル神戸
近日上映予定 京都:京都シネマ
そのほか、全国順次公開予定