銀幕ナビゲーション-喜多匡希

アメリカばんざい
〜crazy as usual〜

【「狂っていて普通」というアメリカの常識】 あとで読む

アメリカばんざい 〜crazy as usual〜
© 2008 森の映画社

「アメリカばんざい」というタイトルに込められた皮肉が、サブタイトルの「crazy as usual」で更に増幅される。曰く、「狂っているのが普通」と。

 アメリカ合衆国。

 その成立は、1775年、当時イギリスの植民地であった13州が独立を求めて決起(独立戦争)したことに端を発する。その結果、1776年に独立宣言を行い、1783年に独立を達成。1787年にはアメリカ合衆国憲法が成立。1789年には初代大統領にジョージ・ワシントンが就任。以降、急速に領土を拡大し、現在では50州+1特別区(ワシントンD.C.=Washington The District of Columbia=ワシントン・コロンビア特別区 【注】:ワシントン州とは異なる)より成る超大国に発展した。独立から200年余り。世界史的に見ても、比較的新しい国家である。

アメリカばんざい 〜crazy as usual〜
© 2008 森の映画社
アメリカばんざい 〜crazy as usual〜

<愛と自由の国> という清く美しいイメージの下、<アメリカン・ドリーム> なる希望の旗印を目指して世界中から人々が集うこの国は、<人種のるつぼ> という言葉が示す通りの他民族国家だ。そしてその歴史は、先述した清く美しいイメージとは裏腹なもの。アメリカ合衆国の急速な発展は、先住民(ネイティブ・アメリカン)や奴隷貿易によって強制連行された黒人奴隷に対する差別と、侵略戦争・軍事的恫喝や買収による国土拡大を抜きにしては語れない。

 独立戦争以後、アメリカ合衆国は数多くの戦争に参加してきた。内戦である南北戦争の他、西米戦争・第一次&第二次世界大戦、朝鮮戦争、ベトナム戦争、グレナダ侵攻、パナマ侵攻、湾岸戦争などである。また、世界各国の右派軍事独裁政府に対する金銭的軍事支援も行ってきた。今や <世界の警察> とまで呼ばれるようになったアメリカ合衆国だが、その歴史は、 <愛と自由> を標榜しながらも、その実、 <差別と暴力> に満ちていると言って過言ではない。本作は、そういったアメリカ合衆国が抱える矛盾というひずみを、日本人ドキュメンタリー映画監督:藤本幸久が現在の視点から見つめた長編ドキュメンタリーの力作だ。

アメリカばんざい 〜crazy as usual〜
© 2008 森の映画社

 9.11.アメリカ同時多発テロの後、アメリカ合衆国は <正義> の名の下、イラクに対して軍事的報復を開始。名も無き若者を多数戦場に送り込んだ。その結果、刷り込み的教育によって妄信してきた国家に対する信頼が音を立てて瓦解する者も少なくなかった。自身が信じて疑わなかった理想が、罪もない子どもに銃を向けることでもあったという現実。その理想と現実のギャップに打ちひしがれた者を待ち受けるのは、PTSD・失業・懲罰・差別などである。そういった戦争の二次的被害を、国家はサポートしない。2009年度には6,750億ドルに増加すると言われる軍事予算は、日本の予算総額を軽く上回るそうだが、それに反して、福祉予算や教育予算は削減の一途を辿っているとか。

<体験を通して真実に気付いた者たち> の存在はアメリカ合衆国にとって都合が悪い。ゆえに野ざらしにする。「狂っていて普通」だからだ。そこからはみ出した者は必要ないとでも言わんばかりのこの対応は、「非国民」という言葉が横行していた昔日の日本と同一の愚かしさを感じさせる。一面的でない真実を追究した魂の叫びが本作にはある。

<戦争を行うのは人間。そして、その犠牲になるのも人間> である。真の平和とは何かをじっくりと考えるきっかけになる一作としておすすめしたい。

アメリカばんざい 〜crazy as usual〜  http://america-banzai.com/

2008年 日本 118分 配給:森の映画社=太秦
監督:藤本幸久

【上映スケジュール】
7/26(土)〜 東京:ポレポレ東中野にて上映中
8/16(土)〜 大阪:十三第七藝術劇場
8月公開予定 愛知:名古屋シネマテーク
そのほか、全国順次公開予定
※ポレポレ東中野では、藤本監督の前作『Marines Go Home 辺野古・梅香里・矢臼別』と、
最新プロデュース作品『空想の森』を同日より公開

2008年7月28日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
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