銀幕ナビゲーション-喜多匡希

ひゃくはち

【補欠野球部員の青春
大いなる収穫と言える1本!】 あとで読む

ひゃくはち

「野球のボールにある縫い目の数は百八なんだって」
「人間の煩悩の数も百八だよね。なんだか凄いね」
「でも、野球はアメリカで生まれたスポーツだろ? 縫い目の数が煩悩の数と一緒なのは偶然だよ」
「……そっかあ〜(笑)」

 主人公である2人の高校生野球部員が繰り広げる、このような会話に青春の本質が包まれていて大変微笑ましい。ここにある青さや友情こそ、青春の普遍性を示しているように感じて、実に豊かな映画鑑賞となった。

 正直なところ、さして期待していなかった作品である。「ひゃくはち」というタイトルと、野球ボールのみを収めた1種類目のポスター・ビジュアルを前にして、そこから煩悩の数との同一性を連想することはごくごく自然なことであり、別段の驚きはない。そこで湧き上がったイメージは、猥雑なバカ騒ぎに満ちたものであり、いわゆるシモネタで彩られた、やや下品な作品であろうと予想していたからだ。

ひゃくはち
ひゃくはち

 しかし、実際に鑑賞に臨んで驚いた。その驚きは大変な歓びを共にするもので、開巻ほどなく「おや!?」と思い、やがて時を忘れて見入っていた。下から上へ流れるエンドロールを目で追いながら、すっかり御機嫌になってしまっただけでなく、鑑賞から数週間を経過しているにも関わらず、本作の瑞々しい感動が一向に色褪せることなく心に留まっているのだから、これはまさしく嬉しい驚きというものだ。大きな期待を抱いて臨んだ作品が、その期待通り、若しくはそれ以上のものであった時の歓びも映画鑑賞の醍醐味と言えるが、さして期待せず、なんとなく出会った作品が思いがけず素晴らしいものであった時の歓びといったらない。これだから映画鑑賞はやめられないのだ。予期せずして幸運な本作との出会いは、筆者にとって広く本作を御紹介したいという衝動に繋がっている。夏の大作陣に埋もれて欲しくない。キラリと光るこの大いなる収穫と言える一本を、是非多くの方に知っていただきたい、鑑賞していただきたいと願ってやまないのだ。

ひゃくはち

 本作は、ある高校の名門野球部に在籍する2人の補欠部員を中心とした青春映画。華々しく注目を浴びるスター選手ではなく、その影で懸命に努力する補欠部員にスポットを当てたところが、本作の豊かさに直結している。彼らは怠惰なわけではない。時にハメを外しながらも、レギュラー選手に負けず劣らずの、いや、時にはそれ以上の努力を重ねながら、それぞれの青春というドラマを編み込んでいるのだ。

 決して大仰なドラマが用意されているわけではない。そもそも、いかにもとってつけたような作り込んだドラマティックな展開は本作に似合わない。ここにある等身大の青春群像こそ、多くの人々の感動を呼ぶものだ。煩悩絡みのエピソードも盛り込まれていると、本作はそちらの方向に脱線し続けることはなく、あくまでそういった猥雑さも青春のヒトコマであるとして描き、実に微笑ましいものがある。汗にまみれた青春模様の中で展開される秀逸な友情のドラマが清冽な印象を残す。

 若手キャストの奮闘振りを支えるベテラン助演陣の好演も見どころ。特に光石研と竹内力が素晴らしい。

 昨今の日本映画隆盛は、本作のような作品が支えているのだ。心からおすすめする。

ひゃくはち  http://www.108movie.jp/

2008年 日本 126分 PG−12指定作品 配給:ファントム・フィルム
監督:森義隆
出演:斎藤嘉樹、中村蒼、市川由衣、高良健吾、北条隆博、桐谷健太、小松政夫、二階堂智、光石研、竹内力、ほか

【上映スケジュール】
8/ 9(土)〜 東京:テアトル新宿、池袋シネマサンシャイン、TOHOシネマズ錦糸町、立川シネマシティ
8/16(土)〜 大阪:テアトル梅田
京都:MOVIX京都
8/30(土)〜 兵庫:三宮シネフェニックス
そのほか、全国順次公開予定

2008年8月4日号掲載 このエントリーをはてなブックマーク
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